焼香とは、死者や仏に対してお香を焚いて拝むことを指し、仏壇やお墓の前で線香をあげることも焼香に含まれます。
葬儀でお焼香をする意味は、焼香が仏教における供養のひとつだからです。仏教では、お香は「不浄を祓う」もので、仏教の生まれたインドで古くから「匂い消し」としてお香を用いてきました。気温や湿度が高いインドでの遺体の問題は「腐敗臭」でしたので、お香は重宝され、「悪臭や遺体の腐敗臭を消す働き」=「不浄を祓うもの」として仏教の重要な供養の一つとなりました。
日本もまた高温多湿な気候のため、仏教伝来とともに伝わったお香は非常に役に立ちました。葬儀の前日のお通夜は「一晩中故人の思い出を語らいながら寄り添う」という意味以外に、「一晩中お香を絶やさないようにするため」という意味があります。
昔はドライアイスなど無かったため、焼香による遺体の匂い消しという実用的な意味合いが現在より重要でした。
お焼香の仕方
一般的には、左手に数珠をかけ、右手でお焼香を行ないます。仏教では宗派により焼香の仕方も細かい部分は違いますが、基本的な部分は同じです。
【おしいだくとは】
右手の親指、人差し指、中指の3本で抹香をつまみ、額の高さまであげることを「おしいだく」と言います。おしいだいた後、指をこすりながら抹香を香炉に落とします(1~3回)。これがお焼香です。
【立礼(りつれい)焼香の場合(斎場での葬儀ではこの形がほとんどです)】
1.順番が来たら席を立ち、焼香台の前まで移動します
2.遺族に一礼、焼香台にさらに一歩近づき、遺影に向かって一礼
3.宗派ごとに定められた回数だけ焼香を行ない、合掌して一礼
4.遺族に一礼し、席へ戻る
【座礼(ざれい)焼香(自宅や和室などで行なう場合の形です)】
基本的な焼香の順序は「立礼焼香」と同じです。まっすぐには立たず、移動の際には中腰で移動します。座りながらの移動は、親指を立て、それ以外の指は握ります。そして両腕を体の両脇より前に置き、体を持ち上げるようにしながら、膝を前に出して移動します。
【回し焼香(式場が狭く、移動しづらい会場での形です)】
香炉と抹香の乗ったお盆を回して行なう焼香です。自席に回ってきましたら、座っている場合は自分の前に、椅子に座っている場合は自分の膝の上にお盆を置き、焼香を行ない、終わったら次の方へお盆を渡します。
宗派による違い
【真言宗】
焼香の回数は3回、3回とも額におしいだくか、最初の1回だけを額におしいだきます。
数珠は、一輪に広げ、浄明玉の付いている法を左に、綾取りのように両手の中指にかけ両手で数珠を挟み込むようにします。
【曹洞宗】
焼香の回数は2回です。最初の焼香を主香、故人の冥福を祈って行なう焼香を意味します。2回目の焼香を従香、主香が消えないようお香を加えるものです。そのため、主香の際にのみ、額におしいだきます。焼香の際には左手を右手に添えます(左手に抹香がこぼれたら一緒にくべます)数珠は、二輪にして左手にかけ、両手で数珠を挟むようにします。
【浄土真宗本願寺派(西)】
焼香の回数は1回のみ、額におしいだくこともしません。(浄土真宗は、死後に既往生という考え方なので、冥福をお祈りする必要がないのです)数珠は左手にかけ、房は下にして、右手を中に通します。二輪は片方の房紐が「蓮如結び」という独特の結び方になっています。
【浄土真宗大谷派(東)】
焼香の回数は2回です、本願寺派と同じく、額におしいだきません。数珠は、一輪も二輪も両手を中に通し、一輪は房を下に垂らし、二輪は親玉と中玉を親指で押さえ、房は左側に垂らします。
【浄土宗】
特に定められておらず、形式ていな3回よりも真心のこもった1回の焼香、また周囲の状況を見て判断するようです。ただし、抹香をつかんだ後は、手のひらを上に向け、こぼれないよう左手を添えるのが正しい作法です。数珠は、二つの輪を両手の親指と人差し指ではさみ、房は手前手首のほうへ下げます。
【臨済宗】
臨済宗も焼香の作法について特に定められておりませんが、臨済宗のWebサイトによれば、「別れの一本線香」と言われるよう焼香も1回のみにすることが多いようです。
おしいだきはありません。数珠は二輪にして左手にかけ、両手で数珠をはさむようにします。
【日蓮宗】
導師(お坊さん)は3回焼香を行ないますが、参列者は1回と決められています。
おしいだきは1回(または3回)。数珠は、簡単なお参りでは二輪にして左手にかけ両手で数珠をはさむようにします。お勤めの時は三房の方を左にして、綾取りのように中指にかけ、両手で挟むようにします。
【日蓮正宗】
焼香は3回、おしいだきます。数珠は日蓮宗と同じです。
【天台宗】
特に定めはありませんが、1回か3回が多いようです。おしいだくかどうかは自由です。数珠は、二輪にして左手にかけ、数珠を手ではさむようにし、房は下に垂らします。また、人差し指と中指の間に数珠をはさみ、そのまま包み込むようにするかけ方もあります。
神式の場合
神式ではご焼香の代わりに「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」という、榊(さかき)の枝葉に「紙垂(しで)」という紙片を付けた玉串を神前へささげます。
1.玉串を受け取り、左手の手のひらで葉を受け、右手の親指で枝の下を支えるように持ちます。
2.祭壇に進み、祭壇に向かって一礼、その後、根元を手間にして玉串を縦にします。
3.左右の手を持ち替えて、葉先が手前に向くように玉串を時計回りに半回転させます。
4.玉串の根元が祭壇側になるようにして、静かに置きます。
5.二礼、しのび手(音を立てない拍手)で二拍手、一礼、一歩下がって遺影に一礼して戻ります。
玉串が用意されていない場合は、神前で「二礼二拍手一礼」(2回頭を下げ、胸の前で2回拍手し、1回頭を下げる)のみでも構いません。拍手はあくまでも「しのび手(音を立てない拍手)」です。
キリスト教式
キリスト教式では、ご焼香の代わりにカーネーションなどの花を手向ける「献花」を用います。
1.右手に花がくるように両手で受け取ります。
2.祭壇に進み、手前で一礼。
3.茎が祭壇に向くよう時計回りに回転させ、献花台に捧げます。
4.黙とう、もしくは深く一礼します。
5.前を向いたまま一歩下がり、遺影に一礼して戻ります。
参列者の多い葬儀の場合は、献花を省略し、全員で黙とうを捧げる場合もあります。
※無宗教式も上記「キリスト教式」の「献花」をします。
※神式、キリスト教式には数珠を持っていかないようにしてください。数珠は、もともと僧侶がお経を読む際に数を数えるため使っていたものです。