香典は、通夜や葬儀の際に霊前へ供える不祝儀のことです。故人に対する供養の気持ちを表すもので現金を包み式に持参します。香典を包む香典袋の書き方や、式当日の渡し方にはいくつかマナーがあります。本項ではそのポイントを確認していきます。
香典の書き方の基本
先ほども述べたように、香典とは 現金を香典袋に包み、線香や花の代わりに霊前に供えるもののことを言います。訃報の知らせを受けたら、この香典を通夜か葬儀のいずれかに持参します。現金を包む香典袋には表書きをつけます。
香典は香典袋(不祝儀袋)に包んで持参します。この香典袋は、現在はコンビニなどでも手軽に手に入るようになりました。種類によっては「御霊前」「御仏前」などのように、すでに表書きがなされているものも売られていますが、この表書きは宗教によって異なるため 選ぶ際には注意が必要になります(後述)。
自分で表書きを書く際には、基本的に「薄墨」を使うのがマナーです。純粋な黒ではなくわざわざ薄墨を使うことには、「涙で墨も滲み薄くなってしまった」という意味が込められています。現在では弔事の際に使うための薄墨の専用筆ペンも販売されているので、手元にあると便利です。
宗教ごとに異なる?表書きの書き方
香典を書くにあたってまず注意しなければいけないことは、表書きの書き方は宗教によってしきたりが異なるということです。参列する葬儀の形式や宗教の種類によって、香典袋の書き方は大きく異なります。代表的な宗派ごとに香典の書き方を紹介します。
1.仏教式
宗教が仏教であるならば、水引きの上中央の表書きには「御香典」「御仏前」などを書きます。市販の香典袋の中には蓮の花が印刷されているものがありますが、これは仏式の香典専用に作られたものです。蓮の花がついた香典袋は他宗派では使わないようにします。
また、仏教の中でも、浄土真宗の場合は「御仏前」を用います。これは浄土真宗における「往生即成仏」、すなわち「人が命を終えて浄土に往生すると、すぐに仏様になる」という考え方によるものです。浄土宗など仏教における他宗派では、人が仏になれるかどうかの審判は死後四十九日目に下ると考えられるので、「御仏前」の表書きも四十九日後に使われます。その他の仏教で用いられる表書きとしては、「御霊前」「御香料」「御弔料」「御供」などがあります。前述したようにできるだけ薄墨の毛筆や筆ペンで書きましょう。サインペンなどは使わない方が無難です。
水引きの下中央には差出人の氏名を書きます。このときの氏名はフルネームで、表書きよりも少し小さめの字で書きましょう。
2.キリスト教式
キリスト教式では、表書きには「御霊前」「御花料」「献花料」といった言葉が使われます。特にカトリック式では「御ミサ料」、プロテスタント式では「弔慰料」といった表書きがなされることもあります。
右上に十字架が描かれている、百合の花が描かれている、といったものがキリスト教式専用の香典袋です。水引きはあってもなくても構いません。また、封筒の色に関しても厳密な規則はないようですが、やはり白無地が無難でしょう。
表書きの下には、同じように会葬者の氏名をフルネームで書きます。
3.神式
宗教が神道の場合、表書きには「御神前」「御玉串料」「御霊前」「御榊料」などが書かれます。水引きは仏式と同じく白黒か、もしくは双白・双銀のものが使われます。表書きの下段には差出人の氏名をフルネームで書きます。
4.宗教が分からないとき
香典袋を書く前に、先方の宗教がなんであるかは確認を取っておくべきですが、どうしても分からないときは表書きをどうすればよいのでしょうか。宗教を問わず使える表書きとしては「御霊前」があります。先方の宗教が不明な際の表書きにはこれを書くようにするとまず咎められることはありません。
ただ前述したように、香典袋にはある宗教専用の物(仏教専用の蓮の花が印刷されたもの、キリスト教専用の百合の花が印刷されたもの など)があるので、宗教不明の場合には これらの香典袋は使用を避けます。訃報を受けた際に宗教や宗派を聞き忘れたからと遺族に直接連絡しなおすことは、葬儀の準備で忙しいうえに心理的にもつらい状態にある遺族に さらに負担をかけることになりかねないので、あまり推奨はできません。相手方の宗教がわからないというときは、表書きは「御霊前」としましょう。以上が宗教ごとに見た香典袋の表書きのしかたとなります。
中袋の書き方
香典袋には、中袋、あるいは中包みという袋が入っています。この中に現金を入れますが、中袋にはその金額、会葬者の氏名と住所を書きます。
中袋を記入する際には、表書きと違って黒のインクのものを使います。金額を書く際には、例えば「一」「二」「十」といった 簡単に書ける漢数字ではなく、「壱」「弐」「拾」といった、画数の多い難しい漢字を用います。画数の少ない簡単な漢字は、後から第三者が線を足すだけでその数字を変えることができてしまうため、会計や戸籍などの公の場で用いられるものには使えない決まりになっています。それと同じで、中袋の金額も改ざんができないように、わざわざ難しい方の字を使うのです。また購入した香典袋によっては、中袋にすでに金額記入欄が印刷されていることがあります。横書きの場合もありますが、そのときには例えば3万円なら「30,000円」とアラビア数字で記入しましょう。住所は省略・簡略化したものを書くのではなく、郵便番号から正式なものを全て楷書で記入します。
香典を渡すときには?
香典は主に通夜か葬式の際に持参します。香典を持参するときには「ふくさ(袱紗)」に包む、というのが正式なマナーとなります。ふくさとは、香典を包む専用の小さな風呂敷のようなものです。ふくさがない場合は、白や黒、グレーといった落ち着いた色の無地のハンカチなどで代用するとよいでしょう。
香典を渡すタイミングは、会場に到着して受付を行うときです。受付で自分の順番が回ってきたら、まずは一礼してお悔やみの言葉を述べます。その後記帳するようにという指示があるので、それに従って記帳をしましょう。
記帳を済ませたのち、ふくさから香典を取り出します。このとき、例えば受付の順番待ちをしているときなどに、香典を予め取り出して用意しておくことはマナー違反に当たりますので避けましょう。ふくさを手早く畳んでから、一度その上に香典を置きます。その後、受付の人から見て文字が読みやすいように香典の向きを変えて渡します。その際、「どうぞ御霊前にお供えください」といった言葉を添え、一礼しましょう。受付の人が受け取って、香典渡しは終了となります。
上記の例は仏式のよくあるもので、会場や宗教・宗派によっては受付の順番や流れが異なることがあります。何か予期しないことが起きても慌てず、困ったら受付の人の指示に従ったり、前の人がどのような手順を踏んでいるか観察したりするとよいでしょう。
おわりに
以上が香典の書き方・渡し方の主な流れとなります。冠婚葬祭すべてに当てはまることですが、このような場では地域や宗教によってマナーに違いがあることがあります。通夜や葬式に出席するという機会はそう多いものではありません。いざとなれば緊張するでしょうし、自分のマナーは本当に正しいのだろうか、と不安になることも多いかもしれません。香典は遺族に直接渡すこともあり、何か失礼があったらいけないと気負い過ぎてしまうことがあります。しかし葬儀において最も重要なのは、故人を悼み冥福を祈る気持ちです。多少の失敗は恐れず、気持ちを込めた振る舞いを心がけましょう。表書きに関しても、基本を押さえていれば 少しの失敗があってもあまり咎められることはないものです。とにかく丁寧に、気持ちを込めるということを忘れないようにしましょう。