葬儀に参列するとき、注意しなければならないマナーはたくさんあります。もちろん、昔ながらのしきたりや地域の慣習、考え方によって一概には言えません。しかしそれらを踏まえたうえで、遺族に対して失礼のない、そして故人に対する思いを台無しにしないよう、守るべきマナーはきちんと行いたいものですよね。
最近は葬儀の形もずいぶんと変わってきており、家族葬で小ぢんまりと故人を送り出すなんていう形式のものも人気が上がってきてはいますが、だいたいは通夜と告別式が行われ、弔問客に参列していただくというのが今でも一般的ではあります。
通夜と告別式。どちらも参列できるのであればしたいところではありますが、どちらか片方だけしか行けない場合にはどうしたらいいのでしょうか。必ず両方とも参列しないと失礼にあたるものなのでしょうか。
そもそも告別式と通夜って何が違うの?
現在一般的に仏式の葬儀では、告別式と通夜が二日に渡り執り行われます。二日間かけて、故人とのお別れをするというのですが、実は、本来は告別式と通夜はこんな風にセットになっていたわけじゃないんです。
では本来の姿はどんなものだったのでしょう。
お通夜って本来はなにをするもの?
本来、通夜は故人が生前とくに仲の良かった友人や知人が弔問に訪れて、遺族である親族とともに、夜通し故人ついて思い出話を語り合いながら一夜を明かすというものでした。この「夜通し」ということから、いつか「通夜」と呼ばれるようになったわけなのです。
通夜では夜通し、祭壇の蠟燭や線香を絶やしていけないという慣習があります。最近は渦巻き式の線香なども普及されて、遺族の負担はずいぶんと減りました。そして、通夜に参列してくれた弔問客に「通夜振る舞い」という食事などを用意します。これによって、とくに故人と親しかった人たちが集まり、夜通し故人を偲ぶわけです。
通夜また、セレモニーとしても捉えられており、司会によって式は粛々と進行します。大まかな流れとしては、開式のあいさつ、故人の紹介、僧侶の読経、参列者の焼香、弔電・弔辞、献花者の紹介、閉式のあいさつ、といった順番で行われます。
告別式って本来はなにをするもの?
通夜の翌日に執り行われる告別式は、本来は葬儀とは関係のないものだったのです。今では、芸能人や有名人がファンに向けて行う、「お別れ会」というのがありますが、実は、これこそが告別式の本来の姿だったと考えられるのです。
日本ではじめに告別式が行われたとされるのは、1901年に亡くなった中江兆民(思想家)の葬儀だったと言われています。そのころは、無宗教での葬儀として執り行われたようです。(下記に追加記載)
告別式は通夜に行う内容を簡素化して、できるだけ多くの参列者が故人とのお別れができるようにしています。基本的には故人の紹介、僧侶による読経、参列者全員の焼香、喪主のあいさつ。この程度でだいたい終了です。
告別式と通夜は両方とも参列しないといけないもの?
葬儀に参列したいのですが、告別式と通夜、両方とも参列しないといけないものなのでしょうか。どんなに親しい間柄であっても、本当はどちらにも参列したいという強い思いがあったとしても、忙しい現代人にとって、どうしても両方とも参列することができないという場合もありますよね。
そんなときは、告別式か通夜かどちらかに参列してもかまわないとされています。片方でも参列することで気持ちは届けられ、一応は「礼は尽くされている」ということだそうです。ですから親族でもない限り、無理に両方とも参列しなければならないということはありません。親族であれば職場で忌引き休暇がありますが、親しい友人だという理由では、快く休暇をくれる職場なんて、なかなかないのが現状ですよね。
最近はとくに通夜であれば、夜に行われるということから、日中に行われる告別式よりも参列しやすいため、通夜のみに参列するという人が増えているようです。
ただし、告別式の案内しか受け取っていない場合に、勝手に通夜にも参列したりすると、場合によってはマナー違反として遺族に対して失礼であると思われてしまうこともあるので、注意しなければいけません。
告別式と通夜の両方に参列した場合、香典はいつ渡せばいいの?
告別式と通夜の両方に参列するからといって、入場料ではないのですから毎回香典を渡す必要はありません。どちらか一方に参列したとき、お渡しするので問題はありません。できれば、通夜に参列したときお渡しできるように準備しておくべきでしょう。もしも受付がなくて渡すきっかけがなかったり、そのときの状況によって渡すきっかけがつかめなかったりして、通夜で渡せなかった場合は、告別式のときに渡すということでかまいません。
香典というのは、そもそもは亡くなられた遺族に対して、相互扶助の精神のもと始まった、地域の助け合いの意味が込められているのです。ですから、ちゃんと気持ちさえ伝えることができれば、そんなに堅苦しく考えなくても大丈夫なわけです。
告別式と通夜の両方に参列した場合、記帳はいつすればいいの?
記帳については、両方ともに記入する場合が多いようです。これもとくに決まりごとがあるわけではありませんので、深く考える必要はありません。ただ、遺族がのちに、誰がいつ参列してくれたかを確認するためのものでもありますので、そういう意味では、やはりどちらも記帳しておくべきかもしれませんね。
基本的には通夜では必ず記帳するようにはなっています。そして、告別式のときには、もし気になるようであれば、受付の係の方に通夜で記帳した旨を伝えてみるのもいいかもしれません。不要であればそのことを知らせてくれるでしょう。
【小話】
中江兆民と無宗教葬について
1901年に喉頭がんで亡くなった中江兆民という人は、ルソーの『社会契約論』の翻訳を行ったフランス学者です。また当時、自由民権運動に大きな影響を与えた人物として有名です。
明治30年頃の日本の一般的な葬儀といえば、葬列を組むという葬儀が最も盛んであったころです。そしてそれと同時に、生活を改良していかなければならないという考え方も広まりつつあるころで、葬儀のあり方にも疑問視を抱く人々が急増し始めた時期でもありました。
その中で、中江兆民は、異常ともとられるくらいの強いこだわりをもって、無宗教葬を訴えていました。その意思を継いだ結果、宗教色をなくした葬儀として告別式が誕生したのだということです。
この告別式が実際に普及しだしたのは、昭和に入ってからです。都市化が進んできたことで、今までのように共同体では葬儀がしにくくなってきたのが、一番の原因のようですね。