花屋で働いている友人がいます。勤務しているのは都心の花屋で、その花屋の最大の得意顧客は、近所の葬儀場だと言っていました。「お葬式があると、いきなり忙しくなるのよね。結婚式場よりも断然、葬儀のほうが大量注文よ」とつぶやいていました。
確かにそうでしょう。葬儀場に行ってまず正面に見るのは、花をふんだんに使った祭壇と遺影です。そして、斎場に入ったときにいつも感じる、ひんやりとした香気。花が多いと故人が眠る場所が清らかな気に包まれて、悲しみが少しだけほぐれるような気がします。
死者に花を手向けることの歴史と供花について
お亡くなりになった方があり、その葬儀日程が決まると、すぐさま花を注文することが多いです。故人に生前、お世話になっていた場合は当然の心境でしょう。「何かしたい」という気持ちと、でももう何もできないという悔やみが、せめてお花を……という行動になって表れていくのでしょう。花輪だったり、フラワースタンドだったり、あるいは花束や盛花、篭花を枕元に……という形にしろ、さまざまの花が故人に手向けられます。
シャニダール遺跡(いまのイラクにあり)から発掘されたネアンデルタール人の骨から、大量の花粉が出てきたとのこと。つまり、ネアンデルタール人(旧人)はすでに、死者を埋葬し、その遺体に花を供えていたのです。今から6万年も前にお葬式があったことを示す証拠ではないでしょうか。死者を悼み、美しい花々で死体を飾ってから埋葬するという行動パターンは、我々の原始の記憶にしっかりと刻み込まれているようですね。
祭壇で良く使われる花とその理由
葬式でよく見る花は、白菊や白百合、蘭や白カーネーションやカラーなどでしょうか。宗派や葬儀のスタイルによりさまざまな花が登場するでしょうが、最も多いのは白い花でしょう。白という色は無彩色であり膨張色でもあるのですが、清らかさと華やかさの両方を備えた、神聖さを感じさせる色ですよね。派手に見えないのに派手、色が無いことにより強い存在感を示す、絶対色です。そして、白い花は、心癒される緑の葉との組み合わせにより、可憐さが目に沁みます。
死後は火葬がしきたりの日本では、白い花が葬儀で多く用いられるには理由もあります。強い赤系の色花を柩に入れると、骨に色移りがしてしまい、お骨上げのときに驚かれることがあるそうです。その点、白い花なら、間違いないということですね。
葬儀だけではなく色々なシーンで使われてきたお花
花が美しいのは、注目を集めたいからです。受粉してくれる昆虫たちはもちろんですが、その色形を愛で、次の季節にもまた植えてくれる人のためにも、美しく咲いてくれるのでしょう。そしてどんな時代にも、人の門出に花はつきもの。誕生、入学、卒業、結婚、退職、入退院、そして、人生最後のステージで、最も大量の花が求められるのも故なきことではないのでしょう。花が美しいのは、命がやがて尽きることを知っているからこそかもしれません。