毎年8月も半ばになると、東京は閑散とします。商店や医療機関までも『○○日~○○日までは休業します』という張り紙が目立つようになり、テレビではニュースなどで交通機関や道路の混雑情報を放送しだします。
旧盆での帰省ラッシュです。その有様は、うれしいことが重なるたとえに「盆と正月が一緒に来たようだ」と言われるようにお正月とよく似通っています。ただお正月と大きく違うのはお盆が二度あることでしょう。
7月13日〜16日の新盆 8月13日〜16日の旧盆
7月13日から16日にかけての新盆(しんぼん)と、8月13日から16日までの旧盆(きゅうぼん)です。お盆はご先祖の霊が帰ってくる時だと言われています。そんなに度々行き来をするのではご先祖様も大変だと思いますが、新盆と旧盆は家庭・家庭ではっきり分かれ両方するところはさすがに見当たりません。
これは明治時代に新暦に変わったためそれまでのお盆の時期とずれてしまい、農作業の忙しい最中がお盆と重なったため一ヶ月遅らせるようになったということです。そのため地方は旧のお盆に近い8月に行うことが多いのでしょう。東京が閑散とするのもうなずけます。
きゅうりの馬で早く帰ってきて下さい、帰りは茄子の牛でゆっくりと。
さてお盆のお供えに欠かすことのできないものにきゅうりとナスがあります。ご先祖様が来るときはきゅうりの馬に乗り早く帰ってきてください、帰りは茄子の牛でゆるゆると。子供のころそんなことを親から教えられました。考えてみると季節の野菜をお供えして、豊作を願った名残なのでしょう。きゅうりも茄子も地物は8月がちょうど旬です。
また茄子でこんなお供えをするところがあります。14日の夜、茄子を細かいさいの目に切りお米と混ぜて用意をしておきます。翌日の墓参りの時に柿の葉っぱや里芋の葉を適当な大きさに切ったものに乗せて、お墓に供えるのです。「水の実(みずのみ)」といいます。きゅうりやささげ、ミョウガを使うところもあるそうです。私の故郷の宗派では欠かせないお盆のお供え物でした。
野生動物の餌になるため廃止しはじめた地域も…
ところが数年ぶりに帰郷した故郷のお墓には「水の実」が供えてありませんでした。親戚に聞くと、この「水の実」が野生動物のエサになる為、禁止になったとのことです。お盆の期間中、それも16日には片づけてしまうものなのに少し大げさすぎる、最初聞いたときはそう思いました。しかし「供えた花も鹿に全部食べられた」とか「庭の柿木の実が色づいたらクマが登って食べてしまった」、「いやうちは猿にやられた」などの話を聞くうちに、結構切実な話だと思うようになりました。
田舎では子供のおやつのためや救荒食として庭に柿やクリの木を植えています。現在はそれをもいで食べる子供もほとんどおらず、高い木に登れる若者の数も減っています。お年寄りでは食べる量も知れているでしょう。熟れたままになっている果物がエサになって、野生動物が本当にすぐそばに来るようになっているのです。お墓のお供えにさえも気を付けなければならない、そんな時代になっているのでしょう。
東京に人が戻ってきました。田舎は元の静けさを取り戻しているでしょう。それには少しのさみしさと怖さが混じっているようです。