日本の漫画の先祖と呼ばれ、平安時代末期〜鎌倉時代初期に描かれたとされる「鳥獣戯画」。
この鳥獣戯画には、実は中世日本の中流貴族・中流武家〜庶民層の人々の冠婚葬祭、特に葬送儀礼の光景の一端をよく捉えた作品という側面があることはあまり知られていない。
源氏物語とは違い、やや身分の低い人達の葬儀の様子が描かれていた鳥獣戯画
以前に「源氏物語」は平安の上流貴族の葬送儀礼をよく捉えた作品であると指摘した。
一方で時代が少し重なる『鳥獣戯画』は、やや身分の低い人々の葬送儀礼の一場面を、視覚的によく捉えた作品であると言える。
さて、その葬送儀礼の場面は、絵巻の後半部に描かれている。
数珠を持つ様子も描かれていた
そこには数珠を持って礼拝を行う人々、経机の前に座り読経する2人の僧侶が登場する。脇には夫婦と子ども1人が控えているが、この一家の父親(サルの姿の人物)は深く悲しんでいる。この描写からは、これが誰かが亡くなったことに関する仏事であり、脇に控える夫婦と子どもが故人の遺族であることが推定できる。
興味深いのは、男女の出家者でない「一般人」参列者が、既に仏事に数珠を持って参列していることである。僧侶でない人々も仏事に数珠を持参する風習は、既に中世に始まっていたことが伺える。
更に見ていくと、仏像(この仏像も、カエルの姿である)の前に座り読経する、より位の高い僧侶がいる。ここには故人の遺体を納めた棺がないことから、既に埋葬が済んでおりそれ以降の法要であることがわかる。
サブカルだった鳥獣戯画
なお、この時代は火葬は極めて高級な葬送法であり、皇族や上流の貴族や武家に独占されていた。ここでの故人や遺族はある程度裕福であると思われるが、いわゆる中流層だと思われる。そのため、故人は恐らく土葬されたことだろう。
この仏事と連続するかどうかは解釈が分かれる場面ではあるが、ラストには僧侶に沢山のお礼の品を贈る人々が描かれる。僧侶の思わず微妙ににやけた表情が、動物の姿であるにも関わらず、リアルな人間くささを感じさせる。
「鳥獣戯画」は今でこそ国宝であるが、当時はいわゆる「芸術」として描かれたわけではない。葬送儀礼とそれに関する事柄が、動物の姿とはいえリアルに描写されているのは、一つには「鳥獣戯画」が、いわば現代でいうところのサブカルチャーであったからだとも言える。