図書館や書店に行くと、必ずといってよいほど健康に関するコーナーを目にします。最近はそれだけでなく、癌や難病などを抱えた人々の手記をまとめた「闘病記」のコーナーがあるのはご存知でしょうか。
私も頻繁に利用する都立中央図書館にはビジネス書と同じくらいのスペースが「闘病記」に関する図書に用意されています。勿論こうした種類の書籍の増加は、高齢化が進む社会とそれに伴う終活への関心の高まりを反映したものです。しかし「闘病記」を一つの書籍ジャンルとして成立させたのは、必ずしもこうした社会需要だけではありません。
そこには一つの古書販売サイトが深く関わっていました。
闘病記を集めるキッカケは大切な人が癌になったこと
大学の講師として勤務していた星野史雄氏は、ある日突然妻の乳がん発症を知りました。
彼女との闘病を経て星野氏は、自分と同じような境遇の人々が病との奮闘の中でなにを考えていたのか興味をもつようになり、「闘病記」を集めるようになったそうです。
さらに当時はあまり知られていなかったこれらの書籍を広めるために、「パラメディカ」という一つの闘病記専門の古書販売サイトを立ち上げました。今では月に数十冊の注文がきて、徐々に利用率も上がってきています。
販売することを目的としたのではなく、一種のエンディングノートに似た意味合いがある闘病記
今では「闘病記」という一つの物語は活字による表現にとどまらず、テレビなど映像によるドキュメンタリーとして我々の間に広く認識されています。
しかし本来「闘病記」は当初から書籍や映像のような消費されるコンテンツとして作成されたものは多くありません。それは日々病と苦闘し避けられない己の死を前にした時に、今でいう一種の「エンディングノート」としてこれまでの自分の人生を回顧するために作られていたのではないでしょうか。
そうしたある一人の孤独な闘いの記録を収集し、同じような境遇に喘ぐ人々へ届け始めたのが、先達者としての星野氏だったといえるでしょう。
何を感じてどのように向き合うかを参考にして欲しいという思いで始まった闘病記
冒頭でも述べたように、「闘病記」というジャンルが広まったのは高齢化と終活という社会需要を反映しただけではありません。
需要が高まっても、そこに以前より「闘病記」というある程度の数が揃った書籍群の存在が知られていないことには、「闘病記」を売り出していこう、コーナーを設けよう、という発想は出てきません。
それよりももっと純粋に「同じ癌や難病に苦しむ人々に、人生最後の時へ向けてどのような態度で臨むべきかについて一つ参考になるものを提示しよう」という星野氏の努力が不可欠です。そうでなければ我々は己の死を前にして、五里霧中へと陥ってしまうことでしょう。