人はいつ死ぬのか。どのくらいの寿命を持っているのか。星占いとして親しまれている西洋占星術によると、人の生死は星によって定められているという。その本来の技術は、人間の寿命や死因までも星の計算によって算出できるとされている。
西洋占星術
古代より占いが絶えたことはない。科学、医学が発達しても占いは存在してきた。現代でもテレビをつければ情報番組で今日の運勢が告げられる。街を歩けば占い師に当たる。占い師がいない都市はないといってよい。科学ではわからないことはたくさんある。その中でも霊や超常現象などより遥かに切実で身近な問題がある。自分の運命である。人間には時間の概念がある。わかるはずもない未来を知りたがる。その手がかりが占いである。占いの中でも西洋占星術は星占いとして親しまれており、おそらく易、手相、タロットなどと並び、最もポピュラーな占いといえるだろう。
占星術(東洋にも存在するが、本稿では西洋に限定する)は、古代メソポタミア文明において始まり、アレクサンドロス大王以後のヘレニズム世界で、ギリシア人学者らの手によってとりあえずの完成となった。占星術では天空の星(惑星・星座)と、地上の人間や世界の出来事とが対応していると考えられ、星の動きを読み解くことで未来を予知できると信じられた。
プトレマイオスの死期予知
古代ギリシアの天文学はプトレマイオス(83頃〜163頃)の「アルマゲスト」によって大成された。いわゆる天動説の大成者として著名であるが、同時に占星術書「テトラビブロス」を編んでもいる。「アルゲマスト」の天動説は後のコペルニクス(1473〜1543)によって否定されるが、中世から現代に至る西洋占星術は「テトラビブロス」の理論が基本となっている。そしてこの書物には人間の命数を測り、死期を算出する方法も記されている。
占星術はホロスコープを作成することから始まり、まず黄道十二宮上の生誕時の太陽の位置を定める。黄道とは1年を通しての太陽の通り道で、これを12で割ると太陽はそれぞれの枠に約1ヶ月留まる。その枠におなじみの12星座をあてた。さらに月や火星、土星などの惑星の位置をあて、12星座同士の角度(アスペクト)なども加わり複雑な計算が行われる。そして、ホロスコープを横に二分した直線の左側を上昇点(東の地平線)、右が下降点(西の地平線)と言い、上昇点にあった星が下降点に沈むことは死を意味するとされる。これが人の一生で、度数の差などを計算し寿命を割り出す。その計算方法は非常に複雑で古来から読者を悩ませてきたという。人間の寿命は星によって定められているのである。
占星術は決定論
占星術とは、人間と惑星や星座には相関関係があり、どのような星の下に生まれ、それによりどのような運命を辿るのかを分析する技術である。そこに偶然や人知の及ぶ余地はない。タロットなど他の占いと異なり、システマチックに未来が導きだされる。アプローチが異なるだけで自然科学と同質の唯物論的決定論的な性質といえる。
そのような決定論は、ヘレニズム時代の後に西洋、オリエントを支配した、キリスト教やイスラム教などの一神教的世界観とも相容れない。神の介在する余地がないからだ。神がいなくても秩序がある世界など認めるわけにはいかない。神はその気なら奇跡を起こし、星を西から昇らせることもできる。神の概念からは占星術的世界観は否定された。
占星術の決定論的性質に対する批判は、宗教から離れた現代にまで至っている。占星術世界観では人間の一生は生まれもって決まっており、自分の意思で未来を作る自由意志は存在しないことになる。私たちの人生に意味はあるのだろうかとニヒリズムに陥りそうだが、それでもなお、占星術をはじめ、占いは隆盛を誇っているといっていい。とはいえ、自分の死期など知りたくはないし、それを信じて行動するわけにもいかない。占い師を訪ねる人達のほとんどは恋愛や仕事など、身近な悩みを解消するヒントを求めていると思われる。
弱者を支える「非科学」
西洋占星術以外にも中国の「奇門遁甲」など命数を導くとする占術は存在する。それらを馬鹿馬鹿しいと否定するのは簡単である。しかし否定したあとに何が残るのか。科学では解決できない苦しみを救ってくれる代わりの何かを提供してくれるわけでもない。そんなものに頼るなと、強者の論理を押し付けるのが精々だろう。強者ではない、つまりほとんどの人間の心は「非科学」が支えているともいえる。一方で、この分野には弱さにつけこむ悪意ある輩が付き物である。くれぐれも盲信だけは禁物である。
参考資料
■比留間亮平「西洋占星術に見る人の生死と運命」『死生学年報』14巻 東洋英和女学院大学死生学研究所(2018)
■中山茂「西洋占星術」講談社現代新書(1992)