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日本の心霊主義運動の父で日本スピリチュアリズムの祖 浅野和三郎

スピリチュアルという言葉の意味は現代では多様化している。だが、元々は霊魂の存在を認めるという明確な立場を指していた。霊魂と死後世界。いつの時代でもその実在が問われてきた。科学時代の21世紀においてもそれは変わらない。もし正史には記されない、人が常に求めてきた「日本心霊探究史」を編纂するとしたら、日本スピリチュアリズムの祖とも言われる浅野和三郎(1874~1937)は最重要人物のひとりである。

日本の心霊主義運動の父で日本スピリチュアリズムの祖 浅野和三郎

インテリの衝撃

浅野は東京帝国大学英文学科で小泉八雲(ラフカディオ・ハーン 1850-1804)の教えを受け、在学中に小説や翻訳などを執筆。1900(明治33)海軍機関学校の英語教官を務めた。科学者ではなく文学者ではあるが、当時の日本では屈指のインテリといってよい。西洋の学問を貪欲に吸収していた時代のインテリだった浅野は心霊や霊能の類を信じることはなかった。ところが、三男が原因不明の熱病を発症。何件もの医師にかかるも回復の見込みがなかったのだが、妻が探し出した行者の祈祷によって回復したという。浅野はこの事実に衝撃を受け、心霊の世界に関心を持った。

大本教

1616年(大正4)、浅野は海軍機関学校を退官し、新興宗教「大本教」に入信した。大本の重要な修行法に「鎮魂帰神法」がある。術者に神霊を降ろし託宣を受ける、いわゆる神憑り、神降しである(正確には神降しは帰神法。鎮魂法は瞑想に近い)。浅野は目の前で開祖・出口なお(1836-1918)の帰神法を目撃し心霊現象の実在を確信し入信に至った。浅野にとっては知性・知識を超える世界を直接見た思いだった。入信後は心霊研究の著作を次々と発表。出口王仁三郎(1871-1948)の側近として腕を振るい、大本と鎮魂帰神法の存在は広く世に知られるようになった。しかし浅野はなおへの傾倒は変わることがなかったものの、王仁三郎の思想には不信を抱くようになる。そして国家による弾圧である第一次大本事件を機に、1921 年(大正12)大本を離脱した。

心霊科学と心霊の時代

大本離脱後の1923年(大正12)、浅野は「心霊科学研究会」を設立。現在の財団法人 日本心霊科学協会(1946/昭和21設立)の源流である。宗教・信仰の世界から、心霊現象、心霊の世界を科学的に研究する方向に舵を切ったのだ。浅野は欧米の心霊研究の紹介・翻訳や独自の実験・研究を通して、「死」の問題は科学的に解決されたと確信し、霊魂は実在し霊界との交流は可能であるとした。

この時代ヨーロッパでは、死後の魂の存続と死後の世界の実在についての研究への関心が高まっていた。未曾有の犠牲者を出した第一次世界大戦で近親者を失った人たちが、近親者の「霊魂」との接触を試みたことなどがきっかけだったという。シャーロック・ホームズの作者、コナン・ドイル(1859‐1930)もその一人で、晩年は心霊研究に情熱を注いだ。そのドイルが会長を務める心霊研究団体、ISF(国際スピリチュアリスト連盟)が1928年(昭和3) ロンドンで開催した第3回国際会議に、浅野は東大助教授・福来友吉(1869-1952)と共に参加した。この時、福来は後に「千里眼事件」として世に残ることになる念写の研究を発表した。ISFは宗教色を廃し純粋なスピリチュアリズムを探究することを掲げていた。あくまで科学的に死後生の実在、霊界と現世の交信などの心霊現象を探究する「心霊科学」の流れが世界に定着しつつあった。

死児との通信

1929年(昭和4)浅野は次男・新樹を若くして亡くした。その後、以前から霊媒資質のあった妻・多慶子の身に「霊界」からの次男による通信が行われるようになった。息子と会いたい、息子の声が聞きたいと願い続けた結果、実現したという。これが真実、霊界からの通信だったのか、死児との再会を願う母の幻聴だったのかはわからない。少なくとも霊魂・霊界の実在を確信しており、死は終わりではないと公言していた浅野はこの「霊界通信」の内容を事細かに記録した。心霊科学が生まれたのは死者と話したいという願いである。浅野は父であると同時に心霊科学者としての使命を果たそうとしていた。1937年(昭和12)浅野和三郎死去。死後1年後、多慶子の霊界通信によると、新樹は浅野の魂が離れていく様子を観ていたという。浅野は息子と会えたのだろうか。

浅野の評伝の著者松本健一は、近代日本の「知」は死の問題について、それは宗教の問題であるとして触れようとしなかった。そこに浅野が科学的な心霊研究を取り入れた。しかし、それは死児の声を聞きたいという現実的な課題にたどりついたところで終わったと評している。

死者への想い

浅野の研究会には子を失った人たちが多く集まった。「荒城の月」の作詞で知られる土井晩翠(1871-1952)も、二人の子供を亡くしたことをきっかけに、浅野の下で心霊研究に没頭した時期がある。彼らは皆、失った近親者とのコンタクトを求めて心霊研究に向かった。近代の科学時代は死者への想いを文学的な表現に昇華することに留まらなかった。死者は思い出ではなく現実的物理的に存在することを立証しようとしたのである。その切なる願いは現代でも潰えていない。

参考資料

■松本健一「神の罠 浅野和三郎、近代知性の悲劇」新潮社(1989)
■浅野和三郎「神霊主義 事実と理論」崇山房(1934)
■浅野和三郎編「新樹の通信 幽界物語」心霊科学研究会(1949)
■浅野和三郎著/黒木昭征訳「読みやすい現代語訳 心霊講座」ハート出版(2014)
■拙稿「交霊会やハイズビル事件など物理的な心霊現象の歴史と当時の背景

ライター

渡邉昇

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