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TOP 葬儀コラム 自分の命は誰のものか。自分か他者か。死は遺された人たちのもの。

自分の命は誰のものか。自分か他者か。死は遺された人たちのもの。

自分の命は自分だけのものなのか。自分の命だからといって自分勝手に扱ってよいと単純に考えてよいのか。生も死も、他者との関係性を無視しては成り立たない。むしろ生死は関係性の中に存在する。

自分の命は誰のものか。自分か他者か。死は遺された人たちのもの。

死は存在しない。死は特殊。

そもそも自己の死なるものは存在しない。死の構造は特殊である。死とは常に自分以外の何者かの死である。自分の死を経験することはできない。臨死体験という現象があるが、蘇生した者は死んでいるとはいえず、自分の「死」そのものを経験することはできない。エピクロスの言葉は真実だろう。

「死というものは存在しない。なぜなら、我々が存在する限り、我々に死は存在しない。我々に死が存在するとき、我々は存在することをやめているからである。」

「死」とは他者の死のことであり「私」の死は存在しない。

共鳴する死 死と関係性

他者とは自己と対置する存在であり、自己との関係性によって成り立つ。では他者のいない世界、関係性の存在しない世界ではどうか。例えば無人島などで誰にも認知されず、人知れず死を迎えた者はどうだろうか。この想定では本人の死を知るのは自分のみである。しかし、自分の、つまり一人称の死がありえないなら、この者に死は存在しない(この想定では想定している筆者の認識が存在するので、厳密には筆者との間に死は存在する)。

人間の死は、それに関わった者の間に共鳴して存在する。他者の死を人々は悼み、悲しみ、時には憎む。本来、死とはそういうものであった。生命倫理学者・小松美彦は「死にゆく者と看取る者との間で分かち合われる事柄として死があった。見られる者は、見る者の認識を通じて存立していた」と指摘する(1)。また、脳外科学者 片山容一医師は「本当の死は家族が死を受け入れたときにやってくる」と述べている(
2)。フランスの哲学者フランソワ・ジュリアンは、生贄のために引かれて行く牛を不憫に思い、代わりに羊を代わりにせよと命じた王の話を「孟子」から引き、「他の存在(それが動物であっても)と暗黙のうちに関係が生じ、たとえ一瞬でもそれに対面すると、人はそれに無感覚ではいられなくなってしまうのだ」と解釈した(3)。

他者の死は関係する者の間に共鳴し「他人事」ではなくなる。「死」とは関係する者たちの間で存在するものなのだ。

自己閉塞する生死ー命は自分だけのもの?

死は関係性の中で存在する。そして死がそうであるなら生も同様である。存在とは関係性の上でしか成り立たない。他者がいてこそ自己の存在という言葉が意味を持つ。「人間とは社会関係の総体である」(2)「死と同様に、生もまた共鳴する存在として人々の関係のなかで成立しており、生はこうした共鳴関係のなかでしか捉えられないはずである」(1)
しかし、現代社会はこうした生死の本質に目を背け意味を歪めてしまっている。現代社会は科学的合理主義(物質還元主義)と個人主義(価値相対主義)が根底にある。科学は物理的事象のみを事実とし、すべての事象を物質に還元した。心や精神と呼ばれるものは脳内の電気反応に過ぎず、人体は「モノ」として捉えられた。人体が「モノ」であるならそれは誰の「モノ」なのか。当然自分のモノである。自分のモノは自分が勝手にできる。つまり個人主義である。科学主義と個人主義はここでつながる。しかし繰り返すが自己の存在とはそれだけで成り立っているものではない。

「つまり、私たちは身体の輪郭から内側だけが自己だと軽信しているが、実際は周囲の空間まで含めて自己が成立しており、他者との関係で、しかも他者が誰であるかによって、膨張しているのである。」(1)

本来自己とは身体の内側を超え周囲の空間まで含め、関係性の中で成立している。それにも関わらず、自己は内側にあるという認識がなされている。生も死も身体の内側にあるなら、その所有者が自由に扱ってよいということになる。こうして現代の死生観では、他者の間で「死(生)は共鳴する」という関係性は忘れられ、「自己閉塞する死(生)」となった。死は自分だけのものであり他者は無視される。自死へのハードルも低くなったわけである。

「観察する者・看取る者が置き去りにされ、死が個人の身体内で起こる客観現象となり、したがって個人の所有物であるかのように見なすことを可能にする、死の把握の仕方」(1)

葬儀の意味

死が共鳴するという事実がもっとも現れる場が葬儀である。会葬者は葬儀の場で嘆き、追憶し、語り合い、死がその場にいる人々の間に共鳴していく。本来死とはこのような過程を経て認識されていくものであった。小松は中世における死の段階に言及し次のように述べる。

「かように看取る者と死にゆく者、死んだ者と死なれた者との相互の間で分かちあわれる時間の流れの総体が、中世における死だったのである」(1)

まさに葬儀とはこのようなものであった。しかし最近では通夜、告別式を行わない密葬(家族葬)が増加している。一部の知人、友人のみ、また会葬者不要、家族だけで済ませる形式も少なくない。これは主に故人の生前の意向である。葬儀にかかる経済的、時間的負担を家族に強いることをよしとしないということもある。だが、そもそも死を個人のものとして認識し完結しようという態度が現れているようにも思われる。ここには関係性という死の本来の意味を忘却した個人主義が根底にあるのではないか。

死は遺された人たちへ

死は当人を超えて関係する者たちに共鳴し、関係する者の間で、死者は依然として存在する。科学主義、個人主義の現代では、死(生)が自己閉塞し、死のリアリティを我々から奪う結果になっている。これが死を軽んじ、自他の命を粗末に扱う風潮の遠因のひとつになっているように思われる。自己の死は残された人たちに残される。自死する前に、もう一度周りの人たちの顔を思い浮かべてもらいたいと願う。

参考資料

(1)小松美彦「生権力の歴史 脳死・尊厳死・人間の尊厳をめぐって」青土社(2012)
(2)小松美彦「生を肯定する―いのちの弁別にあらがうために」青土社(2013)
(3)末木文美士「他者/死者/私」岩波書店(2007)

ライター

渡邉昇(掲載日:2022/01/06)

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