終活という言葉が世の中に浸透してもう何年も経つ。終活は人生の終わりの為の活動であり、その一つにエンディングノートの作成がある。自分らしい最後を家族と共に迎えるため、がん宣告を受けた父親が病気に向き合い、最後の日まで前向き生きる姿を記録したドキュメンタリー映画「エンディングノート」を見たので紹介する。
あらすじ 公式HPより引用
2009年、東京。熱血営業マンとして高度経済成長期に会社を支え駆け抜けた「段取り命!」のサラリーマン・砂田知昭。67歳の時、仕事も一段落し40年以上勤めた会社を退職、第二の人生を歩み始めた矢先に、毎年欠かさず受けていた健康診断で胃ガンが発見。すでにステージ4まで進んでいた。残される家族のため、そして人生総括のために、最後のプロジェクトとして課したのは「自らの死の段取り」と、その集大成とも言える“エンディングノート”の作成。やがてガン発覚から半年後、急に訪れた最期。果たして彼は人生最後の一大プロジェクトを無事に成し遂げることができたのか?そして残された家族は―。
エンディングノートというマニュアル作り
主人公「砂田知昭さん」の家族は、妻、長女、長男、次女。映画の語りはカメラを回す次女「砂田麻美さん」(この映画の監督)である。まるで父親が語るかのように次女が話すことでストーリーが進んでいく。チャプターは大きく10個に分かれ、それぞれに『To do(すべきこと)』としてお題がある。以下はTo doのうち1から5までを紹介する。
To do.1 神父を訪ねる
葬儀に対しての希望は、仏教徒の父の墓に一緒に入る事と、葬儀は家族と親しい友人で行いたいという事であった。父親の墓は宗教を問わないこともあり、かつて娘の送り迎えの際に目にしていた教会にお願いをする。カトリックの教会の為、洗礼名も後にもらうことになる。家族が普通に過ごす中、教会で貰った聖書を読む姿も描かれている。
To do.2 気合をいれて孫と遊ぶ
仕事の都合で海外にいる長男の娘たち2人が日本に帰ってきて共に遊ぶシーン。さらにはもう一人孫が生まれる予定だそう。また、がんが消えると言って、家族が大量のにんじんジュースを飲ませるという次女の言い方がなんとも面白いシーンもある。
To do.3 自民党以外に投票してみる
ここでは主人公の妻について語られている。若い頃は喧嘩も多く妻との関係もあまりよくなかったようである。その後、定年を迎え、転勤により空き家になってしまった息子の家に管理人という名目で住むことになり、妻とは別々の生活をする。週末だけ落ち合う週末婚をスタートし、40年ぶりに一人暮らしを行ううちに、喧嘩が絶えなかった妻との間に今までなかった穏やかな時間を感じるようになる。そんなさなかにがんの告知を受けてしまうのだ。
To do.4 葬式をシュミレーション
3番目の孫が誕生して2週間後、主人公の誕生日を祝うシーンがある。ここでは、彼がどうして教会で式をするのかが語られている。理由として挙げているのは、会場が好印象・自宅と距離が近い・コストがリーズナブル(推測)という。
To do.5 最後の家族旅行
名古屋で一人暮らしをしている94歳の母も一緒に家族旅行に行くシーン。女性陣が買い物をするなか、一人寂しそうに取り残される場面も描かれている。彼が最後の家族旅行に、伊勢志摩を選んだ理由が、昔食べて忘れられなかったあわびステーキを食べるためである。そして、洗礼を受ける話を母にするという目的もあったようだ。
最後に
主人公の砂田知昭さんは、亡くなる直前まで、家族にあたたかく見守られ享年69歳という若さで亡くなった。後半では病室ではじめて妻に愛していると言ったシーンや、ベッドの上で洗礼を授けたのがずっとカメラを回していた次女だった事、アメリカにいた長男家族も駆けつけ、もう一度孫と遊ぶ姿が描かれ、家族の愛の深さに感動を受けた。ほんとうに最後まで描かれたこの映画に、筆者は涙が止まらなかった。エンディングノートは、生きているうちに自分の老後や死後についての希望や家族に気持ちを伝える方法である。もちろん書いた本人が自分らしい最後迎えるために、今までの人生を振り返るためのものでもあるが、残された家族の中で生き続けるために必要な存在でもあると、映画を通し改めて感じたことである。ご家族でぜひ、ご覧になっていただきたいと思う。
■映画「エンディングノート」
2011年制作 配給:ビターズ・エンド
監督:砂田麻美
製作・プロデューサー:是枝裕和
■エンディングノート 公式HP