スペインは、ヨーロッパの中でも独特の文化を持っている。現在はキリスト教の国であるが、スペインの位置するイベリア半島は、約800年間にも及ぶイスラム教の支配を受けてきたという歴史があるからである。特に、地理的にアフリカに近いスペイン南部は、イスラム教の文化が色濃く残っている。スペインにおける文化融合の歴史を紐解いてみたい。
スペインとイスラム教の歴史
711年、北アフリカからイスラム勢力であるウマイヤ朝が侵入し、キリスト教勢力だった西ゴート王国を滅ぼした。北方の一部地域を除いたイベリア半島のほぼ全域の、イスラム教による支配がここから始まる。その後、キリスト教勢力による国土回復運動(レコンキスタ)とイスラム王朝の侵攻が繰り返されることとなる。この間に、両宗教の融合した、スペイン独自の文化が形成されることとなる。やがて、キリスト教勢力が優勢になり、アラゴン王国とカスティリャ王国が合同して、スペイン王国が1479年に成立した。スペイン王国は、1492年にイスラム教勢力最後の都であるグラナダを征服して、レコンキスタを完成させた。
融合した文化
最も文化の融合を感じることができるのは、建築物である。例えば、スペイン南部のコルドバにあるメスキータ-コルドバ大聖堂は、西ゴート族の教会がイスラム教のモスクに姿を変え、再びカトリック教会となった建物である。ゴシック様式やルネサンス様式といったカトリック教会の建築様式と、幾何学模様やアラビア語による碑文が混在している。スペイン語の中にはアラビア語が由来のものが多く存在する。フラメンコや闘牛の掛け声である「Olé」は、アラビア語の「Allah」が由来とされている。食文化においても、灌漑設備による稲作や果樹園、オリーブやサフラン、ナスや玉ねぎなどの野菜がもたらされた。現在ではスペインを代表する料理となっているパエリアは、こういったイスラム教勢力によってもたらされたものが多く使われている。このようにスペインでは身近に、2宗教の融合した文化が息づいている。
最後に…
スペインの中世史は、キリスト教とイスラム教の戦いという負の側面をもつ。2宗教の対立は世界各地で続いており、現代社会の問題である。しかし、別の面から考えると、その歴史を経たからこそ、スペイン独自の文化が花開くこととなったと言える。また、異なる宗教文化の融合により、独特の文化が生まれるのは、日本に限ったことではないということを、スペインの歴史は教えてくれる。
参考資料
■「情熱でたどるスペイン史」池上俊一(岩波書店)