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医療や看護、看取り、葬送を目的に兵士に寄り添った宗教者・陣僧たち

人類の歴史から戦争がなくなったことはない。今もこの瞬間もどこかの土地で血が流れ命が散っている。 逃れられない戦いと死に向かい合う戦場の兵士たちに寄り添う「従軍チャプレン」という宗教者が海外の軍隊にいる。そして日本にもかつて僧侶が武士に寄り添っていた時代があった。

医療や看護、看取り、葬送を目的に兵士に寄り添った宗教者・陣僧たち

従軍チャプレンとは

チャプレンとは病院やホスピスなどに勤務して終末期患者の看取りなどの宗教的ケアに従事する牧師・神父のことである。世界の軍隊には「従軍チャプレン」の制度を採用している国が多くがあり、元々チャプレンとは従軍牧師(神父・司祭)のことを指していた。その起源は遠く旧約聖書に見られるという。

従軍チャプレンの職務は、死にゆく兵士に臨終の祈りを捧げ、戦死者の葬儀を行う。また、兵士たちの様々な悩み、相談を受けるカウンセラーであり、倫理や道徳を教える教師でもある。その一方でチャプレンは宗教教育の時間に自軍の正統性を説いたり、自ら先頭に立って兵士を鼓舞したりもした。キリスト教の戦闘的な一面が垣間見える。しかしこの後述べるように、日本の中世武士が殺生の罪に怯えていたことを考えると、神の名における殺生の免罪は、否応なしに戦争に参加している兵士などには救いになったかもしれない。なお、本稿では触れないが、従軍チャプレンにはキリスト教の牧師・神父だけではなくユダヤ教のラビ、イスラム教のイマーム、そして仏教の僧侶もいる。

中世の従軍僧・陣僧

日本には従軍チャプレンの制度はないが、鎌倉時代から南北朝時代を経て室町に至る中世の時代、武士が戦場に赴く際に従った従軍僧が活躍した。これを「陣僧」という。彼らの活動は、戦傷者への医療・救護、瀕死の武士の最期の看取り、戦死者の供養・葬送など、従軍チャプレンとほぼ同様とみてよい。

チャプレンの歴史に比べると、中世に入ってやっと陣僧が本格的に登場したのは、日本において仏教がいかに「個」から遠かったかがわかる。日本では仏教は鎮護国家のための学問にして呪術であり、個人のものではなかった。それでも特権階級たる平安貴族らは阿弥陀像に五色の紐でつなぎ、臨終後の極楽往生を望んだ。そうした中、法然(1133〜1212)が念仏を唱えるだけで極楽往生できるとする専従念仏を説き浄土宗を開くと、救いを求める民衆が殺到した。そしてある意味で農民や町衆以上に切実に救いを必要とする武士たちも法然の念仏にすがった。

死が身近だった武士にとって宗教は救いの手になり得た

そもそも武士というものは、特に乱世に生きる武士は常に死と直面しているだけに験を担ぐものである。彼らが恐れたのは物理的な死ではなく、むしろ「死後」の恐怖だった。殺生をしたことによる堕地獄こそが武士が最も恐れたことだった。源平合戦に敗れ源氏に囚われた平家一門の武士・平重衡(1157〜1185)は、処刑を前に法然(1133〜1212)に面会し授戒した。彼は生前多くの殺生を犯したことで地獄に堕ちることを恐れたのである。法然は念仏を唱えるなら、いかなる罪人悪人でも許され極楽往生できるとした。重衡は感激しむせび泣いたという。

陣僧は各宗派から出ていたが、やはり極楽往生を説く浄土系が多かった。専従念仏は仏像も五色の紐もいらない。念仏によって武士は戦場に阿弥陀仏と共にあることができた。仏教各派の中でも浄土系の時宗僧侶が善知識(教えを説く先達)として従軍するようになったのは必然だったのである。

陣僧として知られていたのは時宗の僧侶

浄土系の中でも陣僧として知られているのは時宗の僧侶である。時宗は一遍(1234〜89)を祖とする浄土系仏教の宗派で、鎌倉から南北朝・室町に至り隆盛を誇った。浄土系仏教は法然に始まり、親鸞が深め、一遍で極まった感がある。柳宗悦(1889〜1961)によると、浄土宗は私たちが阿弥陀仏に帰依し、浄土真宗は阿弥陀仏の方が人間を救いに来る。そして時宗においては私たちと阿弥陀仏の間に断絶はなく一体であると説く。一遍に至り究極にまでシンプルとなった念仏は、複雑な儀礼も、小難しい座学も、時間のかかる行をする時間も余裕もない乱世の武士の救いとなったのである。

宗教者が戦場へ向かうことの矛盾

宗教者が戦場に従軍するのは矛盾しているように見える。いかなる形であれ宗教者が戦闘に加担していることには変わりはない。米軍の従軍チャプレンには宗教者でありながら正規の階級を持つ事例もある。その場合彼らもまた兵士ということである。そして戦場であるからには、汝の敵を愛せよというわけにはいかない。自軍の兵士を支援することは敵方の敗北に一役買っていることになる。しかし兵士たちは敵も味方も望んで戦争に参加しているわけではない。重衡とて好んで殺生をしたわけではない。戦争なるものは一個人の意思ではどうにもならないことである。

どのような経緯であれ、今まさに死に直面している兵士に寄り添うことと、反戦を唱え従軍を拒否すること。どちらが宗教者の本分といえるのか。これは難しい問題である。

それでも彼らは戦場へ向かう

戦場は病院と並び、生と死が交錯する場所である。その意味で本来、戦地において宗教者は医師や看護師と並ぶ重要性を持つ。終末期患者に対する宗教的ケアの必要性が叫ばれる昨今だが、前線にいる兵士たちもまた終末期患者と言えるだろう。宗教者としての矛盾を孕みながらもチャプレンたちは「救い」を携え、戦場へ向かうのである。

参考資料

■今井雅晴「中世における陣僧の系譜」『茨城大学人文学部紀要. 人文学科論集』第17号 茨城大学(1984)
■田中雅一「軍隊と宗教一米軍におけるチャプレン」」『人文学報』第90号 京都大学人文科学研究所(2004)
■柳宗悦「南無阿弥陀仏」岩波文庫(1986)

ライター

渡邉昇(掲載日:2021/03/19)

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