葬儀の祭壇や仏壇・お墓を美しく彩り、私たちの心を慰めてくれる花。故人に供える花には長い歴史とさまざまな種類がある。今回は葬儀・供養と花の関係についてみてみよう。仏教・神道それぞれの花の用い方についても取り上げる。霊前に供える花の参考になれば幸いである。
仏教と花
花は香や菓子とともに仏への供え物の一つとされている。仏教との関わりも深く、仏前に1000日間花を供える「千日供花(せんにちくげ)」という修業もある。また華道の成立とも深いかかわりがあり、仏教が日本に渡来した時、仏前に花を生ける「仏前供花(ぶつぜんくげ)」の習慣も共に伝わった。以来その習慣は「立て花」として僧侶たちによって守られてきた。室町時代に京都の六角堂の僧侶、池坊専慶が立て花を芸術の域にまで高めたことが、華道の始まりとされている。この池坊の家系は現在でも華道の家元を務めている。
仏式の葬儀で用いられる花
華道が仏前を離れ、芸道となっていったのに対し、仏壇・墓前に供えられる花は供花・仏花と呼ばれる。仏壇や墓前に供える花というと、菊のイメージがある人も多いだろう。しかし必ずしも菊と決まっているわけではない。花は3色・5色など奇数の色を取り合わせる。また、花の本数も5本・7本など奇数で揃え、一対用意する。
葬儀が終わるまで、故人の枕元に飾る花を「枕花」という。故人の魂を鎮めるとされている。訃報を受けて枕花を贈る場合は、白を基調とした籠花にまとめ、送り主の名前とお悔やみのメッセージを添えて贈る。フラワーショップに頼めば、ユリやコチョウランなどをメインとした格調高いフラワーアレンジメントを作ってくれるだろう。
葬儀が終わってから四十九日明けまで、祭壇に飾る花を「後飾り」という。この期間中に弔問する場合には、できるだけ長持ちする花を持って訪ねると良い。菊が好まれるのは長持ちするためである。長持ちという観点から、プリザーブドフラワーを飾る場合もある。また最近では、供花用のハーバリウムも売られている。
神道と花
神道では古来より、一年を通して青々とした葉を茂らせる常緑の植物を神の依り代としてあがめてきた。正月の門松や神棚に供える榊などがその例である。
神式の葬儀(神葬祭)で用いられる花
近年では、神式の葬儀でも祭壇に花を飾ることが多くなっている。祭壇を花で飾る場合にも、神主や参列者が故人に捧げるのは玉串(榊に紙や木綿をつけたもの)である。まれに、神道の葬儀では花を贈らないこともあるので、斎場スタッフに確認してから用意するといいだろう。
仏式の花と神式の花の共通点
仏式で供える花と、神式の祭壇を飾る花の共通点は、白の菊やユリを基調とした落ち着いた色調で統一するという点である。また、使わない方が良い花は共通している。トゲのある花や毒のある花は殺生を連想させるため、ふさわしくないとされる。また、香りが強すぎる花も避けた方が無難である。
仏式・神式それぞれのマナーを押さえつつ、故人の雰囲気に合った花を選んで飾ることができれば、日々の暮らしはぐっと豊かになる。故人を思い浮かべながら、その人の個性に合った花を選んで備えてみるのはいかがだろうか。