世の中のIT化が進み、お掃除ロボットのルンバやiPhoneのSiriなど、ロボットやAI(人工知能)が私たちの日常生活の中でごく当たり前に存在するようになった。当然、葬儀の世界にもIT化の波は押し寄せ、インターネットやSNSを駆使したサービスが定着して来ている。そんな中、2017年にはソフトバンクの人間型ロボット「Pepper」がお経を上げる「ロボット導師」が登場し話題を呼んだ。そして今年、仏教の世界にアンドロイドが出現したのである。
世界初アンドロイド観音「マインダー」が誕生
2019年2月23日、京都市東山区の高台寺にて、世界初となるアンドロイドの観音像「マインダー」が報道陣にお披露目された。マインダーは台座を含める高さが195センチ、幅90センチ、重さ60キロ。胸から上と手のみがシリコン製で、その他の部分はアルミニウムの機械そのままというデザイン。顔、首、腕、胴体が可動式で、左目に内蔵されたカメラにより聴衆と目を合わせる事が出来る。また、人工的な音声で法話を行えるようプログラミングされている。
この日、高台寺の僧侶による開眼法要により観音菩薩蔵としての魂を迎え入れたマインダーは、その後、般若心経をテーマとする25分間の法話を披露した。法話にはプロジェクトマッピングが使用され、そこに映し出された聴衆の問いにマインダーが答えるという形だ。プロジェクトマッピングには、マインダーが説く内容の英語と中国語の字幕も映し出される。マインダーは、まばたきもするリアルで柔和な表情と優しい声、そして滑らかな身振り手振りにより、般若心経の「空(くう)」の意味などについての教えを説いた。
「マインダー」誕生の経緯や制作費
豊臣秀吉の正室「ねね」の名で知られる北政所ゆかりの寺院である高台寺はなぜ、アンドロイド観音を開発し、完成させるまでに至ったのだろうか。
高台寺の後藤典生(てんしょう)執事長は、多くの人に仏教に興味を持ってもらうため「仏像を人間に近づける事が出来ないか」と考え、2017年9月から、大阪大学の教授でもありロボット研究者として日本を代表する石黒浩教授とその研究室の協力を得てマインダーの製作を進めて来た。本体の制作費は約2千5百万円、総事業費は約1億円。
後藤典生執事長が「約2千年前に出来た仏像により仏教はわかりやすくなった」と会見で語ったように、日本に仏教が伝来して以降、各地で仏像が作られた事により日本で仏教は急速に広まった。そして執事長はこうも語る「そろそろ進化する時。平易な言葉による法話に耳を傾けてほしい」とも。
動いて話すアンドロイド観音は、現代社会に対応した仏像の究極の進化像と言えるだろう。マインダーをきっかけに、仏教の教えに興味を持つ人々も増えるのではないだろうか。アンドロイド観音マインダーは、3月8日から5月6日にかけて特別開帳されている。
ロボットと日本人の未来
ロボットと言えば、犬型ロボット「AIBO」の葬儀も有名だ。故障などで動かなくなったAIBOの葬儀は2015年から執り行われるようになり、2018年には100台以上のAIBOが供養された。このニュースに、海外では生命がないロボットの葬儀を不思議に思ったそうだ。日本人のこのような心理は、物を大切にするようにという昔からの教育と、長年一緒に暮らしたものへ愛着がわく、日本人の優しさから生まれるのだと思う。これからも、日本人とロボットは共に進化し続けて行くはずだ。