税理士事務所に勤務していた頃、相続税に係る相談の殆どは遺産分割関係だったが、稀に返答に困り調べてから後日返答した相談もあった。それは動産に関する相談だった。
動産とは土地や家屋、工場、倉庫といった不動産ではなく、家具やパソコン等の家電製品、自家用車やバイクのことを言う。
ある方から、動産である自家用車について相談を受けた
返答に困った相談の内容は、自家用車に関してであった。普段から私達の生活には欠かすことのできない自家用車。都市部ならともかく、地方ならば自家用車が無ければ生活が成り立たない面もある。
だが、相続が絡むと自家用車も実に厄介なトラブルの原因になる可能性がある。筆者は車を趣味としているが、自動車業界に精通しているわけではないので、知らないことも多かった。しかし、相続に絡む問題として調査した結果、意外なことが分かり、とても参考になったことがある。今回はその動産の相続について、実際にあった話を例に述べてみたい。
ある方から、動産である自家用車について相談を受けた
ある資産家が闘病(糖尿病)の末に亡くなった。その方をI氏とする。I氏は筆者同様に車が趣味で、様々な車を集めていた所謂コレクターでもあった。I氏が亡くなる直前にI氏のご家族から相談を受けたのだが、内容は、I氏が最も気に入っていた車についてだった。
その車は、倒産した法人名義の車だったが、縁があってI氏が購入。購入後かなり手間をかけた為か、どこに行くのでもその車を使い、他の車は殆ど使わなくなるほど入れ込んでいた。I氏とご家族の懸念は、その車がI氏の死後(相談の段階で余命幾許も無いと聞いていた)どうなるのかということ。筆者も車が趣味であるが、名義変更といった行政手続きについては、全くの素人であるので、調べてから回答する旨申し伝えた。
その車について調べていくと意外な事実が判明
筆者自身の伝手を頼りに調査した結果、手続き次第では犯罪すれすれの行為を強要される可能性があり、I氏お気に入りの車は大きな問題を抱えていたことが判明した。
まず、倒産した法人名義の車は、名義変更が事実上不可能であること。I氏もこの事実を認めており、実際に車検証上にはI氏の氏名や居住地の記載は全くなかった。次に倒産した法人が、この車を某消費者金融への担保物件として差し入れていたことが契約書等から判明したこと。その契約に関連して、非合法な団体の介入の可能性もあることが判明した。
当時病室に居たI氏自身に直接聞いたところ、I氏も倒産した法人の社長と知古であり、個人的に社長にお金を貸し付けていて、その借金の返済として車を格安(事実上無料)で購入していたことを始め、大きな問題があることを認めた。I氏の意思としては、ご家族の誰かが乗り継いで貰えればと思っていたらしいが、ご家族としてはそんな危険な車は必要ないとして、結局はその車を元の所有者に返し、貸し付けたお金は後日返済することにしたのだ。
最後に…
最も身近であり、経費も掛かるが生活には必要な動産である自家用車。視点を変えれば前述のような大きな問題を抱える場合もある。I氏の場合は、事前に調査をしたために何とか事なきを得た。
不動産に限らず、動産においてもトラブルの種を内包している可能性がある。ご家族のみで対応するのでは無理がある。やはり、専門家に相談し、最適な解決策を練っていくべきだと考える。