筆者が税理士事務所に勤務していた時、関与先のお客様から税金関連以外の思わぬ相談をされて返答に窮した経験がある。
内容は、人生相談や子供の進路、子供の躾に関する問題等、多岐にわたった。
終活の一つとして考えるべき「祭祀財産の管理」
正直申し上げて、内容が内容だけに即答できず非常に困ったことが多かった。
先輩や上司に聞いてみると「関与先のお客様にとっては最も身近な法律家故に様々な相談をされる。お客様には専門のカウンセラーとの区別はつかないものだ」と言われ、妙に納得すると同時に自分の勉強不足を恥じたものだった。
今回のコラムは、とりわけ多くの方々から頻繁に相談をうけた内容のなかで、終活にも直接関係がある祭祀財産の管理について綴ってみたい。
気軽に承継すると後々大変なことに…
祭祀財産とは、お墓のことだ。
身近な人が亡くなった場合、その人が管理していたお墓の管理も承継しなければならない。とは言っても、他に親族が居れば家族会議を開催して誰が墓守をするか決定すれば良いので、あまり深刻に考える必要はないかもしれない。
しかし、筆者が受けた相談事例のうち、承継時においては大した問題にならないと思われたが、いざ承継してみると時間の経過とともに大きな問題、即ち大きな負担となってしまい、どうして良いか分からなくなってしまった方々が居た。
お墓が遠方のため世話ができない
一つ事例を挙げてみる。
M氏は立て続けに父と母を亡くした。M氏にはご兄弟が居て、家族会議の結果長男であるM氏がお墓の管理、つまり墓守をすることとなった。最初は、軽い気持ちで引き受けたようだった。その後暫くしてから問題がでてきた。
お墓は飛行機を使わなければならない位の遠方にあること。更に、M氏ご自身と配偶者も高齢と言われる年齢になってきて、体力的にも精神的にもかなりの負担になってきたこと。M氏のご子息達も独立したのだが、遠方にあるお墓の管理は拒否されたこと。これ等が原因でこれからどうするか悩んでいる旨の相談だった。
筆者の回答としては、改葬を勧めた。
M氏のご自宅の近隣の墓地への改葬だ。結果的にはM氏は改葬する選択をし、数年かかって改葬したのだった。M氏曰く、金銭的な負担は大きいが、他の負担が減ることを考え、また、子供達もお墓が近隣にあれば、墓守をするとのことだったので、良い決断だったと仰っていた。
何かとトラブルが多い改葬も致し方なし
改葬は当然、一人で決められる問題ではないし、お寺とのトラブルも多いと聞いていたので、慎重に判断しつつ周囲の方々の理解を得てから対処する旨、M氏に伝えておいたが、上手くいったので筆者としても一安心だった。
因みに、改葬(墓終い含む)そのものには法的罰則はない。
しかし、様々な手続きが絡むので事前に調査すべきである。本来祭祀財産を承継した以上は、守り続けるのが理想だが、現実的には困難な場合がある。その際には思い切って改葬するもの一考に値すると考える。