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英雄・大鳥逸平の多面体 テキストマイニングが導く理系・文系の共生(後編)

(前編はこちら

「昔ながら」の、「文章」そのものについての論考を挙げてみる。日本語学者の中村明(1935〜)は文芸評論家の高山樗牛(たかやまちょぎゅう、1871〜1902)の、「文は人なり畢竟(ひっきょう。結局)これ命なり人生なり」という名言を挙げ、論文や小説などの文章を書いた人間のなんらかの在り方が反映するのは事実として、日常やりとりする手紙類などにも、書き手の人柄が色濃く映り込んでいるはずだと指摘した。また、自身の著作『名文』(1979/1993年)における「名文論」で、名文の唯一の条件として、「作者の人柄を源としてその言語作品が獲得した抜きがたいあるにおいに人は酔う。主体化されてそこにある『雰囲気』に人はまいるのだ」とも述べている。「書き手の人柄」や「におい」「雰囲気」を果たして、AIは感じ取ることができるのか。

テキストマイニングそのものの欠点として、皮肉やジョーク、比喩など、ひとつの言葉に複数の意味があり、なおかつ文脈によって意味が変わってしまうものなどを、「人間」のように臨機応変に解釈することは今現在、難しいと言われている。しかしAIが学習した知識を再構成する仕組みである生成AIであれば、単語レベルではなく、文脈レベルでの分析が可能になってきているという。

また、今回用いた6作品は大鳥逸平の「伝記(biography)」ではない。小説家で文芸評論家の丸谷才一(まるやさいいち、1925〜2012)は「伝記」について、最初のかたちは紀元前1300年ごろのエジプトの墓、紀元前720年のアッシリアの王宮の壁に書かれた、頌徳(しょうとく)表や墓碑銘に見られる「文学形式」で、日本でいえば弔辞みたいに、亡くなった人の事蹟が讃えられたものだったと言う。時代が下り、ローマ帝国全盛期になると、歴史家のスエトニウス(70〜140)の『ローマ皇帝伝』(121年)など、複数の皇帝についての伝記が書かれるようになった。そこでは、ただひとりのある皇帝そのものを描写するばかりでなく、複数の皇帝を描くことを通して、逆にあるひとりの皇帝のみならず、時代そのものを説明することに役立ったというのだ。

しかもこのような「伝記」のスタイルが、後のイギリスの長編小説に活かされた。更にそれが発展する形で、分別があり常識がある「立派な」人物は「退屈」だとして、「失敗」や「奇行」などの面白いエピソードを持つ「奇妙な人」を描いた「奇人伝」が好まれるようにもなっていったという。

「奇人」を愛で、「好き」を刻む 大鳥逸平の多面性と、自己を信頼するための文章術

大鳥逸平に「奇人伝」の観点を照らし合わせてみると、滑稽さやユーモアが「抑制」され、封建制度の犠牲になった清張版の逸平よりも、尺八のうまい虚無僧と酒場で揉め、「尻で吹いてみせる」と言った逸平が、相手の裏をかいて、尺八の「管尻」で巧みに吹いてみせたことを詳細に記した小山版の逸平の方が、「親しみがある」し、「面白い」。それを踏まえて逆に清張版に戻ると、洒落の利いた逸平が「封建制度の犠牲になった」ことへの哀感が胸にグッと込み上げてくる。

また、若手文芸評論家である三宅香帆(1994〜)の、『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい」しかでてこない 自分の言葉でつくる オタク文章術』(2023年)によると、人に勧めたくなるほど、好きなアイドルや俳優などを指す「推し」を語るには、「他人や周囲が言っていることではなく、自分オリジナルの感想を言葉にすること」と強調していた。ここで言う「自分オリジナルの感想」とは、「泣ける」「やばい」「考えさせられるもの」などのありきたりの言葉(クリシェ(cliché))ではなく、「自分は本当にその言葉でいいんだっけ」と立ち止まる。そして自分だけの感情や思考を取り戻すことを勧めている。そのためには、何か/誰かが「よかった」理由について、昔自分が見たものや好きだった推しを引っ張り出したりしながら、自分の妄想力、すなわち自分の考えを膨らませる能力を広げていくと良いという。

しかも三宅は、「好き」という感情は儚いからこそ、「鮮度の高いうちに言葉で保存しておいたほうがいい」とも述べる。自分の「好き」の言語化がだんだん溜まっていくと、それらが丸ごと、自分の価値観や人生になっているのだという。そうなると、誰かにけなされても、自分が変わっても、自分の推しへの思いが変わってしまっても、自分の「好き」についての揺るぎない言語化があれば、自分の「好き」を信頼できる。自分の「好き」を信頼できるということは、自分の価値観を信頼することにもつながる。それは、「自分」というものは、自分の好きなものでできあがっているからだと言う。

更に三宅は、「文章は真似することが一番手っ取り早い上達方法」ともアドバイスする。自分が「推し」について書きたいことを、上手な文章を書いている作家の誰かなら、どう書くかを想像する。その真似をしていると、ある時どうしても逸脱してしまう。それこそが自分の個性である。最初から個性を出そうと考えるのではなく、まずは模倣から始めることも肝要だという。

昔話

先の6作品を描いた作家たちはいずれも、自分の「好き」を巧みに言語化できた「プロ」であることは言うまでもない。6作品それぞれ、6人の作家が逸平について、読んでもらいたい人々に向け、逸平について自分が伝えたいことを「自分の言葉」で描き出している。それを「味わう」ことができるのは、AIではなく、人間だ。

最後に「ネタバレ」になるが、6作品の結末を見てみよう。

昔話は、

江戸の牢(ろう)屋送りとなった逸兵衛は、そこで子分三百人のうち九十数人が捕えられて処刑されたことを知った。残る一味はどこへ逃げうせた-あの手この手の有名な「逸兵衛ゴウモン」がはじまった。が、彼は悪党の頭目らしくガンとして白状しなかった。 

そればかりか、あるとき白状するというので、半紙をとじて渡したら諸大名の名前をかいて、これが「子分の一覧表」などと、役人をからかったりした。あきらめた幕府が、ハリツケの極刑に処したのは、それから一カ月後と記録されている。

大鳥井逸兵衛は「大鳥逸平」あるいは「大鳥一平」とも書く。一説に、八王子の在所の生れだともいう。

あくまでも『武蔵野むかしばなし』における、ひとつのエピソードであることから、逸平への「感情」、そして筆者の「作家性」は極めて抑制され、あくまでも「昔話」に登場する「悪役」の描写に徹している。

小山版

小山版は、

一つ印籠一つまへ、二重廻りの雲の帯、差した尺八鮫鞘は、これ御存じの出来栄え。と河東節にもある通り男を磨く侠客の伊達姿、背に尺八を差した風俗は、浪華で雁金文七、江戸ではこの大鳥逸平(実名一兵衛)が元祖であります。

「音楽批評」を得意とする小山らしく、落語や講談の粋な「締め」を思わせる風情と余韻がある。

綿谷版

綿谷版は、

大鳥逸平自身、こんなことから旗本を四十五人も殺している。彼の党類は江戸に三百人、諸国に三千人と『当代記』にあって、ずいぶん勢力を笠にきた殺伐な所業をしたから、ついに幕府当局は諸大名・諸旗本に命じて、各家の渡り奉公人を吟味し、徒党の者はむろんのこと、大鳥組のオルグらしいと思われる者を、ビシビシ公儀へつき出させた。これに対する大鳥組の反抗は頑強で、奉公人が寄ってたかって主人を謀殺する事件がひんぴんとして起こったため、当局の検索の手はいっそう厳しくなり、拷問された者の白状から大鳥組の組織網は総つぶれになった。

大鳥逸平は八王子に潜んでいたが、慶長十七年(一六一二)六月に捕らえられ、その月のうちにハリツケになったが、そのわずかの入獄期間中に“牢名主座”を考案し、牢内自治制のきまりをつけたと『慶長見聞集』に書いてあるところを見ると、やはり一種の社会運動家だったといえそうである。

ChatGPTの分析ではないが、「元祖かぶきもの」「侠客第一号」の大鳥逸平を、日本の1960年代(昭和35〜45年)において、「オルグ」など、大いに盛り上がった全共闘などの左派系の学生運動が鎮静化してしまっていた時期である、1975(昭和50)年に書かれたものだったがゆえに、生まれつき身分が低かったり、牢屋に収監されているなど、社会的に報われない人々を救う「社会活動家」として逸平を捉えていることがわかる。

清張版

清張版は、

三浦浄心は、大鳥一兵衛について、「もんぜんの言葉に、むかでは死に至れども、うごかずといへるは、此者の事也と諸人云ひあへり」と書いたが、弱い奉公人に報復の組をつくらせ、圧迫者に対して、わずかなResistanceを行わせたことには、あらためて筆を用いていない。

綿谷版より3年前に書かれたものであるが、江戸初期の仮名草子の作者・三浦浄心(じょうしん。1565〜1644)の逸平評を挙げ、自分の「思い」より先に、学術性や客観性を示した「結び」だ。松本版もまた綿谷版同様、学生や労働者による社会運動や労働運動が鎮静化に向かっていた時代を、逸平という人間の生き様を通して「写した」「描いた」ことは見て取れる。

早乙女版

早乙女版は、

北畠具元の著した随筆『古老茶話』には、「これ男ダテとして江戸にて強みを立て切り候者のおよそ初めなり」と、ある。幡随院長兵衛や夢ノ市郎兵衛、唐犬権兵衛などいわゆる町奴、初期侠客の発生も、大島逸平の強きをくじき弱きを助ける精神を後世引き継いだといえる。

虚無僧と賭けた時の逸平の差料-下坂康成に特注して鍛たせた三尺八寸の剛刀には刀心に、金を象嵌された文字、「生きすぎたり二十五」と、あった。

江戸時代中期の国学者・北畠具元(きたばたけとももと。別名柏崎永以(かしわざきえいい)。生年不詳〜1772)の『古老茶話(ころうさわ)』(1736〜1741年頃)の逸平についての記述を引用し、逸平の「かぶきもの」「侠客」としての「男ダテ」を引き継いだ人物を列挙する。そして「逸平の男ダテ」ぶりを裏づけるエピソードとして、小山の「尺八」よりも更に鮮烈かつ、「侠客」ならではの刹那主義、そして逸平の人生観を物語る、侍にとって、命より大事な刀の刀心に彫られた文字、「生きすぎたり二十五」を紹介し、読者に「アンチヒーロー」としての逸平をシンプルかつ唐突に印象づけて終わらせた。

海音寺版

最後に、ページ数の多さゆえに、「時代小説」としてのバランスが6作品の中で最も取れている逸平を描いた、海音寺版を紹介する。

逸平の処刑は、七月半ば、秋風のそよぎそめた頃、江戸市中引きまわしの上、品川鈴ガ森の刑場でおこなわれた。ハリツケであった。
江戸第一の男だてとして最も有名であった逸平の最後を見ようと、引きまわしの町筋には人々が垣をなして居ならび、刑場では山をなした。
逸平は顔色も良く、不敵な微笑を浮かべて死の座につき、澄み切った初秋の空に流れる真白な雲を見ながら、さび槍を受けて死んだ。
その山と集まった群衆の中に、お俊がいた。お俊は逸平の逃走後一時捕らえられたが、表向きは単なる雇人となっているので、すぐ釈放されたのであった。逸平の遠謀の通りになったのだ。
お俊は水晶のじゅずを爪ぐり、はじめからおわりまで念仏をとなえ、たえず涙をこぼしながら、放たず逸平を見つめていた。彼女のそばにどこか西の方の藩中の者であろう。三人連れの武士が立っていて、

「みごとな男ぶりだのう」

「世が世であれば、五十万石六十万石の大名にもなれた男であろうに」

「大名できこうか、天下とりになったかも知れぬ」

「おしい男。世に合わぬ豪傑というものであろう」

などと、話し合っていた。

お俊はそれを聞いた。うれしかったし、いきなり大きな声で叫び出したいような気がした。しかし、こらえた。こらえて、念仏し、合掌し、涙をこぼしつづけていた。

逸平の死を見送るのは、逸平を本田家に紹介した割元(わりもと。今で言う人材仲介業者)の娘・お俊だ。お俊は成人後の逸平に強く惹かれていた。その死の間際、他の人々が逸平を褒めているのを聞いて、「うれしかったし、いきなり大きな声で叫び出したいような気がした。しかし、こらえた。こらえて、念仏し、合掌し、涙をこぼしつづけていた。」。この描写はまさに、先に紹介した三宅香帆が、自分の「推し」の良さをいろいろな人に勧めるための「文章術」として強調していた、「自分オリジナルの感想」そのものだ。つまり、「状況」は、元祖かぶきものの大鳥逸平が市中引き回しの中、磔獄門の刑に処せられつつあるのを見送っている…のだが、自分の「推し」、しかもそれを「みんな」に大っぴらに表明していない、その心のモヤモヤ、或いは鬱屈の最中にある時、見ず知らずの誰かがその「推し」を褒めたたえているのを偶然耳にした喜び!それは「推し」本人に会った喜び以上の喜びを「自分」にもたらす。元祖かぶきものの大鳥逸平を主人公とした「時代小説」のはずが、自分の喜ばしい人生経験と重なる、最高の瞬間をもたらしてくれるのだ。

しかもそれからすぐに、清張版の「犠牲者」としての逸平、綿谷版の「社会活動家」としての逸平、早乙女の「英雄」としての逸平、昔話の、類型化された「悪党」の逸平、小山版の、「侠客文化のアイコン」としての逸平…いずれの「逸平」も、抗うことのできない状況で、亡くなる。

読者は最後にお俊同様、大声で叫びたいのを我慢して、念仏し、合掌し、涙をこぼす。

AIもいずれは、お俊や読者のように、逸平の魂を「供養」することができるようになるのだろうか…

参考資料

■柏崎永以「古老茶話」日本随筆大成編緝部(編)『日本随筆大成 六巻』1914年(3-132頁)日本随筆大成刊行会
■小山荘介「秋の夜ばなし 俠客と尺八 -大鳥逸平-」『日本音楽』1958年8月号(21-22頁)日本音楽社
■早乙女貢「ホラ吹き武勇伝 -大鳥逸平-」『人物往来歴史読本』1963年9月号(42-49頁)人物往来社
■朝日新聞社(編)『武蔵野むかしむかし 下巻』1964年 人物往来社
■綿谷雪「大鳥逸平」坪田五雄(編)『人物探訪・日本の歴史 10 任侠の群像』1975年(37頁)暁教育出版図書
■久喜市史編さん室(編)『久喜市史 通史編 上巻』1992年 埼玉県久喜市
■高木昭作「大鳥一兵衛」下中弘(編)『日本史大辞典 第一巻』1992年(1094頁)平凡社
■日野市史編さん委員会(編)『日野市史 通史編 2 中巻 (近世編 1)』1995年 日野市史編さん委員会
■丸谷才一・湯川豊(聞き手)『文学のレッスン』2010年 新潮社
■海音寺潮五郎『大鳥逸平』財団法人海音寺潮五郎記念館(編)『海音寺潮五郎 未刊作品集 一』2013年(273-378頁)財団法人海音寺潮五郎記念館
■川澄祐勝「慶長の大捕物(1612年) かぶき者の頭領・大鳥逸平太の捕縛」『山報高幡不動尊』2016年12月1日(1頁)別格本山高幡山金剛寺
■中村明『日本語の勘 作家たちの文章作法』2020年 青土社
■久喜市教育委員会文化財保護課(編)『久喜市の歴史と文化財 2 鷲宮神社』2021年 久喜市教育委員会
■「1801夜 世走篇 三田村鳶魚 侠客と角力」『松岡正剛の千夜千冊』2022年6月22日
■三宅香帆『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい」しかでてこない 自分の言葉で作る オタク文章術』2023年 ディスカヴァー・トゥエンティワン
■沢辺有司『マッド・サイエンティスト図鑑 理を外れた33人の科学者たち』2024年 彩図社
■セガ・チェン『AI世界を生き抜く根本原理とルール』2025年 日経BP
■松本清張『大活字本シリーズ 増上寺刃傷 上』2025年 埼玉福祉会
■「チューリング・テストとは?目的や例題・合格基準を解説」『HQW!』2025年3月3日
■「初心者のためのAI入門! 勉強方法をわかりやすく解説!」『開志創造大学 情報デザイン学部』2025年4月4日
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■「台湾スタートアップCEO 日本の強みは文化とロボット iKalaチェン氏が語る世界のAI産業の行方」『NIKKEI BizGate』2025年11月6日
■「iKala会長 程 世嘉(セガ・チェン)、2026年アイゼンハワー・フェローに選出 台湾と米国の産官学を繋ぎ、世界のAI トランスフォーメーションを牽引へ」『PR TIMES』2026年1月23日
■「生成AIとは? AIとの違いから仕組みや種類・活用事例まで幅広く解説」『DOORS DX Media』2023年12月1日/2026年2月12日
■横山信弘「生成AIで仕事はどう変わる 職を奪われるリスクは? #くらしと経済を」『Yahoo!ニュースオリジナル』2026年2月20日
■「対話型AIは『おべっか』 研究で明らかに 人間関係にも悪影響」『毎日新聞』2026年3月27日
■「国会答弁の作成にAI活用 松本デジタル相」『JIJI.COM』2026年4月3日
■「中国の大学で外国語専攻の廃止相次ぐ “AI翻訳”の機能向上、減少する求人…学生に戸惑い」『西日本新聞』2026年4月4日
■「AIテキストマイニング」『User Local』
■「AIとITの違いと関連性を解説!ビジネスパーソン必読の記事」『Hakky Handbook』
■「尺八の演奏について」『公益財団法人都山流尺八楽会』
■「テレビ放送の歴史」『NHK』
■「ビジネスにおけるテキストマイニングと自然言語処理の仕組みと活用事例」『Hakky Handbook』

ライター

鳥飼かおる

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