筆者が税理士事務所に勤務していた時、相続の手続きが終わり、納税を済ませた後にご遺族の方々が異口同音に話していた、ある言葉がある。
それは遺言状を残していたことにより遺産分割協議が円満解決して恙なく手続きが終わったことによる感謝か、あるいは遺言状を残さなかったことにより遺産分割協議が裁判沙汰になるまで拗れてしまい円満解決とは程遠い結果になったことに対する愚痴のどちらかだった。
家族会議は相続人全員で行い、遺産分割についてしっかり同意を得ることが重要!
今回のコラムは遺言状に関して相続が争族にならないよう、今だからできる事について綴ってみたい。
まず遺言状については、自筆証書遺言と公正証書遺言の二種類ある。
筆者は公正証書遺言を強く勧める事が多かった。
自筆証書遺言だと手軽に書ける面もあるが、法的要件を満たさないと無効とされる可能性があるため、より確実かつ安全性を満たすため公正証書遺言を勧めたのだ。
遺言状を作成するにあたり、最も注意すべきことは被相続人と相続人が、被相続人の生前に家族会議を開催し、遺産分割について同意を得ておくことだ。
ここで相続人全員の同意を得ることができれば、相続の手続きは終わったようなものなのだ。同意した内容も遺言状に記載すれば完璧だ。
認知症の兆候があるなら医師の診断を受けさせましょう!
また、被相続人が認知症の傾向があった場合にも注意。
公正証書遺言でも裁判の結果次第では、遺言状そのものが無効になってしまう可能性があるからだ。筆者の場合は、認知症の兆候が見受けられる場合に限り、筆者の上司や被相続人並びに相続人と相談のうえで家族会議の前後に被相続人に専門医の診断を受けて貰い、専門医や弁護士と連携して診断書を公正証書遺言状に添付し、問題を回避していた。少なくとも専門医の診断は受けるようにしておくと良いだろう。
土地がいくらになるのか調べずに相続すると、場合によっては多額の納税が発生!
更に筆者の経験から、平素から「私には相続する財産なんて無いから、遺言なんて必要無い」と言っている方で小さくても土地を持っている方は特に注意すべきだ。
本当に相続財産が相続税の基礎控除額より少額なのかどうか調査し、その結果によりどうすべきかを考えて欲しい。というのも、先祖代々の土地を所有している方で、その土地の現在の相場を把握していない方が居た。土地の区画整理事業が始まり、その方の土地の相場が高騰してしまった。相続の手続きが始まった段階で土地の相場が高騰していることを知り、多額の納税額が発生することになったのだが、前述のとおり遺言状を作成していなかった。そのため遺産分割協議が揉めてしまい裁判沙汰になってしまった。
このような問題を事前に回避し、円満な解決を図りたいと望むならば、遺言状の作成を勧める。転ばぬ先の杖としてより良い終活のためにもご一考を。