「ひつぎ」について皆さんは何か思い出をお持ちだろうか?筆者は「ひつぎ」というと葬儀後の「出棺」を思い起こす。
「男性はお手伝いをお願い致します」というフレーズ
出棺とは告別式終了後、遺体の納められた柩を霊柩車へ乗せ出発するまでのことを指す言葉である。
葬儀に参列したことのある方は、出棺の際に葬儀場の方が「男性の方、お手伝いお願いします」と言うのを耳にしたことがあるのではないだろうか。
男性の方であればこの言葉を耳にしたことがあるだけでなく、実際に柩を霊柩車まで運んだ経験のある方もいらっしゃるかもしれない。
ちなみに先に述べておくと筆者は女性である。そのためこの「お手伝いお願いします」という言葉は耳にはしているものの、実際に霊柩車に運ばれる柩に手を添えたことはない。
祖父の棺を持った、当時高校生だった兄
冒頭で述べたこの「ひつぎ」にまつわる思い出とは筆者の祖父の告別式でのことである。
当時筆者は小学生であり、筆者の兄は高校生であった。この「故人の孫である男子高校生」は「男性の近親者」に当てはまり、筆者の兄も祖父の出棺時には父や叔父、他の参列者と一緒に柩を霊柩車まで運んでいた。
決して「私はおじいちゃんの棺桶を一緒に持てないのにお兄ちゃんだけずるい」などと思っていたという話ではない。ただただ泣きじゃくっていた当時の筆者にはそんなことを考える余裕も思う余裕すらもなかったのではないだろうか。
そもそも、まだ現在であれば話もまた違うかもしれないが、遺体の納められた柩はとてもではないが小学生の女の子が支えられる重さではないだろう。
何故か頼もしく見えた兄
柩を一緒に持ちたかったわけでもなく、他の大人に混ざって一緒に柩を持っている兄を羨んだわけでもない。
ではこのとき何を思い、そして何故「ひつぎ」という言葉を聞きこのときのことを思い起こすのか。正直なところ、自分でも何を理由にこの場面に対して強い印象を抱いているのかはよくわからない、というのが偽らざる本音である。
自ら、そしてわざわざこの話を持ち出しておきながら、こんなことを述べるのもどうかとは思うのだが、ただ一つだけ、その時ばかりはひょろひょろとした兄の背中が頼もしく見えたことを覚えている。
自分自身の意見や思いとして覚えている情報はこれだけにもかかわらず、それでも筆者にとって「何か」思うところのあるエピソードなのだろう。もっと長く時が経てばその「何か」の正体がわかるのか、はたまたわからないままなのか――。さてこれを読まれた皆さんには何か思い当たる思い出があったであろうか。