「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された!その喜ばしいニュースが飛び込んできたのは約1年程前のことである。各メディアにも連日取り上げられ、喜びを口にする日本人と共に多く映し出されたのは、正しい作法で和食を口に運ぶ外国人の姿であった。そんな日本人以上に美味しそうに箸を進める外国人の姿に端を発してか、和食ブームの波は近年高まっており、それに伴って国内外で注目を集めているのが精進料理である。
「美味しく食べたい!」そんな工夫がなされてきた精進料理
「仏教の戒律に基づく、一汁一菜の質素な料理」というイメージだけで精進料理を捉えるのは非常に表面的だ。
確かに、仏教の戒律である「五戒」の一つ”不殺生”(人のみではなく、生き物全ての殺生をしてはいけない)に基づいた料理は、私たち現代人の食生活とは大きな開きがあり、満足感を得られ難いように思うのは当然かもしれない。
しかしそれ故に精進料理には様々な創意工夫がなされているのである。
そもそも精進料理は、修業の一つだった
精進料理とは食事である前に、一つの修行であるというのが精進料理を広めた禅寺の僧侶たちの考えであった。
そんな彼らの考えた精進料理の根底には「五味」・「五色」・「五法」という決まりがあった。
これは調理における一種のマニュアルの様なもので、「五味」とは「甘味」「辛味」「酸味」「苦味」「塩味」を指し、味のバランスがしっかりと取れるように考えられている。「五色」とは「赤」「白」「黒」「黄」「緑」を指し、配色、即ち栄養バランスを整える様に料理すべしと説いている。最後の「五法」とは「生」「煮る」「焼く」「揚げる」「蒸す」。
五味・五色で選んだ食材を如何に調理するかで、料理のバリエーションの変化を重視しているのである。
「雁に似て非なるもの」=「雁もどき」
精進料理を作る上で最も重要なことは、”不殺生”の戒律である。
つまり生物を殺し、その肉を食べることを禁じていた。しかし、その一方で精進料理には所謂「もどき料理」という調理法が存在する。もどき料理とは別の食材を肉や魚のような見た目・味に仕上げる料理のことである。
例えばお麩を豚肉に似せて調理したり、最も有名なのではがんもどきである。ご存知の通り、がんもどきとはおでん種として広く食べられているが、その昔、味が雁の肉に似ていることから、「雁に似て非なるもの」=「雁もどき」となったとされる。
こういったもどき料理を見てみると、戒律に厳しかった僧侶たちも、肉を食べたいという煩悩への抗いが見えてくるようである。
精進料理を味わえるお店も急増!
北陸新幹線開通に伴い、北陸の禅寺は禅の体験と精進料理で国内外の旅行者を呼び込んでいると報道されていた。
今や都内でも精進料理を味わえるスポットが増えてきている。ただ質素なだけではない、食材も調理法も今ほど豊かではなかったその当時の知恵がふんだんに盛り込まれているのが精進料理である。そしてかつての僧侶たちの肉への葛藤も、ほんの一さじ加えられている、それが精進料理の興味深さである。