最近の葬儀会社のサービスがすごい。先日たまたまテレビの情報番組で特集されていたものを見たのだが、あれには驚いた。
葬儀リハーサルまで行う葬儀社
生前に撮影スタジオで遺影を撮ってくれるサービスや、葬儀の際に被葬者本人が棺桶の中で着用する衣装を選ばせてくれるサービスが存在するのだ(このサービスではさらに、マネキンに選んだ衣装を着せ、棺に入れ、葬儀当日のイメージをしやすくしてくれる)。
葬儀のプレビューやシミュレーションといったところか。
本人が決めても肝心の本人はそのサービスを受けられない
しかしこのようなサービスに対して、個人的には少しやりすぎではないかという印象を持ってしまった。
遺影撮影のサービスに関していえば、これは本人が(遺影として)最も良い表情で写っている写真を葬儀で使用するために利用するサービスである。
しかし、いくら被葬者本人が生前に納得した写真を用意できても、葬儀当日にその遺影を見るのは被葬者本人ではなく、遺族や他の参列者である。
葬儀当日に着用する衣装に関しても同じことがいえる。生前に選んだ衣装を葬儀当日に実際に着用できているのかどうか、被葬者本人は知ることができない。着用できたとしても衣装を着た被葬者を遺族や参列者が見るだけである。
被葬者本人は葬儀のとき既に亡くなっている。本人は自分の葬儀を見ることはないのだ。本人がいくらこと細かく葬儀の内容を決めていても、当日それを実行するのは遺族である。諸事情により決定事項を覆される可能性は多分にある。
目には見えないサービス 「安心」を提供
にもかかわらずこのようなサービスを利用するのはなぜだろうか。
それは、本人が安心したいからではないか。
もちろん、その時になって遺された家族が困らないようにとの配慮もあるのかもしれない。しかし家族側の立場になって言わせてもらえば、家族は家族で当日自分たちが困らないようにするから、何も心配しなくていいよと言いたい。家族としては、本当に遺された家族のことを思うならば、自分亡きあと、家族が困らないように生前整理をしておいてくれる方がよっぽどありがたい。私自身が祖母を亡くした際の経験上、そう思う。私の祖母たちのように、心筋梗塞や認知症を発症してからでは遅い。
自分の死後に起こりえる余計な心配を取り除きたい
最近母から聞いた話になるが、生前整理に関する話がある。
私の母方の伯父の長兄が亡くなるときのことである。ある日、本人がおもむろに、気に入った自身の写真を出してきたのだそうだ。そのおかげで、伯父の長兄の葬儀に使う遺影を選ぶ際には困らずに済んだそうだ。さらに伯父の長兄は、自身の人生の記録をビデオにまとめたものを、私の伯父のもとへ送ってきたのだという。
伯父の長兄は人生の節目にはビデオにより記録をとる習慣があったそうだ。今からして思えば、それは本人が死期を悟っていたためにとった行動だと思える。本人の生前整理とも思える行動により、伯父の長兄の遺品整理は楽だったようだ。
このエピソードを聞いて思ったのだが、葬儀のシミュレーションを行うことも生前整理を行うことも、その心理は根底が同じなのでないだろうか。そう考えると、おそらく葬儀のシミュレーションをするサービスは、「生きている間に余計な心配事を無くしておきたい。その思いを酌んだサービスだと思えてくる。
葬儀は、結婚式のように事前に日取りを決めることが出来ないからこそ早めな準備が重要
結婚式の思い出は一生もののはずである。
だからこそ事前に細部にわたり打ち合わせを行う場合も多いのだろう。しかし結婚式の思い出が一生ものなら葬儀の思い出も一生ものといえる。ただその思い出を作る日が人生の最後に来るというだけである。結婚式は事前に本番の日時を決めることができるが葬儀はそうはいかない。決められるのはリハーサルの日程までである。それならば、本番はいつ来るかわからないができるところまで準備しておこうと考えるのかもしれない。このサービスは、私には「備えあれば憂いなし」の究極の形に思える。