突然ですが読者のみなさん、合掌をしてみてください。さて、あなたはお葬式でどこに数珠を掛けて焼香など行いますか。大部分の人が親指と人差し指の大きな間に数珠を掛けていると思います。しかし、マナーとしてこれが正解ではありません。実は同じ仏教でもお経が宗派によって違うように、数珠の持ち方も宗派によって異なっています。今回はそんな手の中のちょっと気づきにくいマナーのお話です。
数珠の掛ける位置
宗派によって数珠の持ち方が異なると前段で述べましたが、この違いは大きく三つのポイントに分けるができます。それは、数珠を掛ける位置、房の垂らし方、数珠全体の持ち方の三つです。以下宗派の違いについてそれぞれの項目を見てきましょう。
一点目の数珠の掛ける位置について、読者のみなさんが咄嗟に思い付いたように、親指と人差し指の間に掛ける方法が一般的です。しかし、古来より密教として伝えられてきた天台宗、真言宗にとっては話が違います。これらの宗教は人差し指や中指に数珠を掛けます。なぜ違うのか、真言宗を例に理由を説明しましょう。密教として伝えられた真言宗では数珠は日々の修行において主に使用されました。修行の最後に自らの煩悩を砕くために数珠を強く擦り合わせる作法がありました。この時、自己の煩悩をできるだけ砕くためにも数珠を擦り合わせる手に力を入れる必要があったために、力の入れやすい中指や人差し指に掛けるようになったのです。
房の垂らし方
二点目の房の垂らし方について、数珠を持ち運ぶ際に数珠の房を下に垂らすことは仏教共通のマナーです。したがってここでは念仏の際の違いに注目しましょう。
房を合掌した両手の下に垂らさない宗派は、浄土宗や浄土真宗大谷派がその代表です。前者では房は合掌した両手首の間に垂らされ、後者ではそもそも垂らさず合掌した両手の上に置くようにしています。ではなぜ、と理由を探してみましたが。そもそも房自体に特段意味があるわけではないため、伝統など因果関係の中で説明することはできませんでした。しかし、一方で面白いこともわかりました。どうやら房の種類には数珠を取扱う人々の流行が反映されているようです。数珠を新調しようと思っていた方は是非、お店で房の形や種類に目を配ってみると面白いかもしれません。
数珠全体の持ち方
三点目の数珠全体の持ち方について、念仏の際に数珠を法具として使用するか否かで異なっているようです。
「煩悩具足」といって特別な修行を積まずとも誰もが極楽浄土に行けるとされている浄土真宗では数珠は両手に掛けるだけです。また、先程数珠が修行の中で重要な役割を果たすと述べた真言宗では数珠全体を両手の間に挟んで擦り合わせます。中でも特異な数珠の使用をするのが禅宗です。禅宗では念仏も題目も唱えず座禅を重視するため、本来数珠を使用する必要がありません。したがって、数珠も片手に掛けるだけでこれ取った作法も存在しません。禅宗らしいシンプルイズベストな使い方です。
最後に・・・
以上、紙面の都合上すべての宗派の数珠の使用について体系的にまとめることはできず、その際に注目した記述でしたが、自分の数珠の持ち方は正しかったですか。
これを良い機会に一度自分の宗派での正しい数珠の持ち方を調べてみるのもよいかもしれません。案外奥深いものです。仏教徒にとってお葬式では必要不可欠な数珠ですが、一番近い場所にあってそのマナーは一番気づきにくいものだと言えるでしょう。一方でそれは差がつきやすいマナーとも言えます。ここを押さえて、お葬式マナーもワンランクアップです。