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肝硬変で42歳で亡くなった水原弘とちあきなおみの「夜へ急ぐ人」

現在表立った芸能活動を一切行っていない、「伝説の歌姫」であるちあきなおみ(1947〜)が昭和52(1977)年9月1日にリリースした歌に、『夜へ急ぐ人』がある。赤い腰紐を巻いた真っ黒なドレスをまとい、ある種の「狂気」を秘めたちあきのパフォーマンスに、当時の人々は度肝を抜かれた。作詞作曲を手がけた、フォークシンガーでシンガーソングライターの友川かずき(現・友川カズキ、1950〜)が後に、「あの曲は、ちあきさんそのものを紙にペタッと貼り付けたようなもの。だから、歌詞に込めた意図なんて何もありません」と語っていたのだが…

肝硬変で42歳で亡くなった水原弘とちあきなおみの「夜へ急ぐ人」

「夜へ急ぐ人」の歌詞と水原弘

   夜へ急ぐ人が居りゃ
   その肩 とめる人も居る
   黙って 過ぎる人が居りゃ
   笑って 見てる人も居る
   かんかん照りの昼は怖い
   正体あらわす夜も怖い
   燃える恋程 脆い恋
   あたしの心の深い闇の中から
   おいで おいで
   おいでをする人 あんた誰

この歌に歌われた「夜へ急ぐ人」−すなわち、「夜の街」そして「自身の心の暗闇」に誘われ、溺れ、破滅し、誰かの助けによって這い上がるチャンスに恵まれても、再びそこへ舞い戻り、最終的に身を滅ぼしてしまった−を具現化したような人物がいた。42歳の若さで、肝硬変で亡くなった歌手の水原弘(1935〜1978)だ。

水原弘の死はどう報じられたか

1878(昭和53)年7月5日、『朝日新聞』の夕刊は水原の死を、以下のように報じた。

…(略)…

昭和34(1959)年、『黒い花びら』でデビュー、黒シャツにニヒルな顔立ち、それに独特の低音と相まって「黒ブーム」をまきおこし、曲は爆発的な大ヒットとなった。この曲で第1回レコード大賞を受賞、映画、テレビでも活躍したが、病気で倒れて一時、不遇の時代が続いた。昭和42年、『君こそわが命』で再デビュー、その年の歌唱賞を受け、カムバックを果たした。

最近はクラブ、キャバレーを中心に全国をまわり、6月23日、巡業先の山口県下関市のクラブで仕事をした後、(福岡県)北九州市小倉北区のホテルに宿泊、24日未明、吐血、意識不明となり、救急車で病院に運ばれた。

関係者の話によると、今年が歌手生活20周年ということで秋にブラジル公演、日本縦断コンサートをする予定だった。

デビューから一気にスターダムへと駆け上った水原弘

永六輔(えい・ろくすけ、1933〜2016)作詞、中村八大(なかむら・はちだい、1931〜1992)作曲の『黒い花びら』だが、正統派の歌唱法プラス、水原ならではの、艶があってどこかやさぐれた「低音の魅力」と相まって、大ヒットの末、第1回日本レコード大賞を受賞した。

水原としては、長い不遇の時を経てからのヒットではなく、デビュー曲でいきなり「天下を取った」と、舞い上がってしまったのだろう。しかし同時代の、例えば「映画スター」の石原裕次郎(1934〜1987)や読売ジャイアンツの長嶋茂雄(1936〜)ほどの、いわゆる「国民的人気」を博したわけではなかった。しかも「歌手」という立場だけで考えると、フランク永井(1932〜2008)は既に、『夜霧の第二国道』(1957年)、『有楽町で逢いましょう』(1957)、『羽田発7時50分』(1958)…など、立て続けに多くのヒットを飛ばしていたからだ。

こうした状況、そして自分の「成功」の要因を冷静に見極められない。更には自分の成功は、自分だけで実現できたと錯覚できてしまう。そしてその錯覚から発するエネルギーによって、スターの魅力を放つのではないか、と、水原の評伝『黒い花びら』(2001年)を著した作家の村松友視(1940〜)は分析している。

豪遊を尽くした水原弘

しかも水原は、ただうぬぼれていただけではなかった。ステージを降りた後には、彼の歌の世界観、「夜のムード」「黒ブーム」通りの生活を送ったのである。「おごり酒は飲まない。他人の金で飲む酒はうまくない」。そして「サラリーマンのようにチビチビ金を貯めるようなケツの穴の小せぇことをしていちゃ、艶も花もあるもんか!」などと、毎晩、芸能人ならではの取り巻きに加え、「おミズ、おごってよ!」と声をかけてくる、見ず知らずの通行人まで引き連れて、銀座のクラブを何軒も飲み歩く。しかも「安酒」ではない。1ドル=360円の固定相場制当時、ボトルキープが1本10万円もした、高級コニャックのレミー・マルタン一筋。それを何本も空けた。更には一晩で300万、現在の貨幣価値ならば3000万円にも及ぶほど、飲み明かしたなどといった「武勇伝」を誇っていた。夜の街では「役者の勝新か、歌の水原か」と、その豪快な飲みっぷりが、常に話題になっていたという。

美学や信念を貫き通した水原弘

だが、村松は2人の「遊び方」の違いや隔たりについて、鋭い指摘をしている。映画やテレビドラマの『座頭市』シリーズで知られる「昭和のスター」勝新こと勝新太郎(1931〜1997)の場合は、「俳優」をやっていたとしても、長唄の大御所・杵屋勝東治(きねや・かつとうじ、1909〜1996)の息子である。幼い頃から三味線の技芸を磨いてきた。それは、ただ単に「経験がある」にとどまらず、勝が得意とした殺陣の演技以上に、自身に艶や色気、迫力や深みをもたらす、「芸のふるさと」でもあった。しかし水原の『黒い花びら』は、勝の三味線のような、「芸のふるさと」となりうるものではない。歌手の宿命として、常に新しいヒット曲を出していかねばならない。それゆえ、ヒット曲の空白をカバーするための水原の豪遊と、「芸のふるさと」が常に自身とともにある「自然児」としての勝のある意味「余裕がある」ものとでは、必然的に違いが生じるというのだ。

そう考えると、ちあきの歌のように水原は、「あたしの心の深い闇の中から/おいで おいで/おいでをする人 あんた誰」と、懐疑と恐怖を抱き、堅実で健康的な「サラリーマンのようにチビチビ金を貯めるようなケツの穴の小せぇ」生き様に舵を切るべきか迷いつつも、結局は、自分の「美学」を貫くために、ムキになってあえて、「おいで おいで」について行ってしまうことになったのだ。

「マ・ダ・ウ・タ・エ・マ・ス・カ」

1億とも言われる借金を残し、水原は亡くなった。ショーのステージを終えた深夜に吐血したにもかかわらず、「一晩眠ればよくなるから、明日東京へ帰る」と言い張っていた水原だったが、救急隊員とマネージャーの説得を受け、北九州市の病院に運び込まれた。しかしその時には、胃の中の血管が切れ、体内の血液の3分の2を吐き出していた。翌日、今度は食道の静脈破裂で吐血した。無菌治療室に運ばれたものの、今度は腸の血管まで切れてしまった。長年の深酒により、水原の肝臓はほとんど機能しておらず、手術は不可能だった。しかし、体内の出血が肺に入り込むのを防ぐため、歌手の命である喉もとを切開し、食道からの出血を外に導き出す応急処置が施された。処置の後、意識を取り戻したものの、口を利くことが叶わなくなった水原は、幼児が使うアイウエオ板が差し出されると、「マ・ダ・ウ・タ・エ・マ・ス・カ」と指でたどり、歌への意欲を捨てることはなかったという。しかし、倒れてからわずか12日で、「東京へ帰る」「歌う」ことが叶わないまま、まさに『黒い花びら』の冒頭の歌詞通り、「静かに散った/あの人は帰らぬ 遠い夢」そのものとなったのである。

コロナ禍で路上飲みが問題になっている

日本において、2020(令和2)年1月15日に国内で初めて感染者が確認された新型コロナウィルスの感染拡大が始まって、1年8ヶ月が経過した。「コロナ鬱」「自粛疲れ」「緊急事態宣言慣れ」「年寄りと違って、若者は重症化しないから〜」「自粛していても感染する人は、感染するし〜」「今を楽しまないと、損!」「ちょっとぐらい」「店がやってないから」…などと、いろいろな理由をつけて、駅前広場や公園などで夜間に、ノーマスクで仲間と缶チューハイなどを飲みながら大騒ぎする、いわゆる「路上飲み」をする人々が後を絶たない。通常時ではなく、コロナ禍の「今」だからこそ、政府やマスコミなど「みんな」が「自粛してください!」と呼びかけているからこそ、彼らはちょっと悪ぶって、アルコールで自らを解放、発散したいのだろう。その姿はまさに、かつての水原弘とは別の意味合いで、刹那的に「おいで おいで」について行く、「夜に急ぐ人」たちなのかもしれない。

最後に…

『夜に急ぐ人』の1番と2番の合間に、以下のモノローグがある。

   ネオンの海に目を凝らしていたら 
   波間にうごめく影があった
   小船のように あっけないそれらの影は
   やがて哀しい女の群れと重なり
   無数の故郷(ふるさと)と言う 涙をはらんで
   逝った

「ネオンの海」を「うごめく影」とは、夜に急いで、自滅した人々の群れなのか。それともコロナウィルスか…「きれいごと」かもしれないが、無駄な人生、無駄な命はひとつもないのだ。「涙をはらんで」逝くことがないよう。

参考資料

■「まだ返せない 水原弘のナゾの借金3000万円」『週刊平凡』1969年10月30日(38−40頁)平凡出版
■「『黒い花びら』散る 水原弘さん 死去」『朝日新聞 夕刊』1978年7月5日(11頁)朝日新聞社 
■「借金1億円、預金・生命保険ゼロ 水原弘、凄絶な死 残された妻・名奈子さん母子の生きる道」『週刊明星』1978年7月23日号(30−33頁) 集英社
■「散った“黒い花びら” 借金王・水原弘の通夜の風景」『週刊サンケイ』1978年7月27日(166−169頁)扶桑社
■矢野誠一「さらば、愛しき藝人たち Ⅱ 壮絶に散った水原弘」『オール讀物』1993年11月号(350−358頁) 文藝春秋社
■村松友視『黒い花びら』2001年 河出書房新社
■佐藤輝「伝説となった紅白歌合戦の『夜へ急ぐ人』〜ちあきなおみとジャニス・ジョプリンの狂気」『TAP the POP』2015年12月29日 
■「ちあきなおみ 紅白で‘気持ちの悪い歌’と言われた 『夜へ急ぐ人』」『NEWSポストセブン』2021年6月25日

ライター

鳥飼かおる

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