2019年に公開された「洗骨」は、沖縄の離島・粟国島(あぐにじま)に残る葬送の習俗の一つが家族とのつながりと共に描かれている。今はほぼ行われていない洗骨であるが、それは愛する者を丁寧にあの世に送り届ける素晴らしい習俗である。映画を通し「洗骨」が伝えたいことをお話する。
映画「洗骨」のあらすじ
沖縄の離島、粟国島・粟国村に住む新城家。母の洗骨のため、長男と長女が4年ぶりに故郷に戻る。実家には、父がひとりで住んでいる。生活は荒れて、妻の死をきっかけにやめたはずのお酒も隠れて飲んでいる始末。戻ってきた長女は未婚のまま身ごもっており、親戚一同は驚きを隠せない。長男も実は離婚をしており、なかなか言い出せずにいた。様々な人生の苦労とそれぞれの思いを抱え、家族が一つになるはずの“洗骨”の儀式まであと数日、家族の絆を取り戻すまでが描かれている。監督・脚本は照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)監督で、ところどころクスっと笑ってしまうところも面白い。
「洗骨」とは
洗骨は一度、土葬や風葬を行ったのち数年後に取り出し、遺骨を酒や海水で丁寧に洗って、再度納骨を行う儀式である。日本では沖縄、奄美諸島に多く行われ、台湾や中国・朝鮮・東南アジアの島々でも行われる。風葬は遺体を埋葬せず自然に安置し、風や雨など自然にさらすことで遺体を風化させていく葬法であり、沖縄全体もかつては風葬が中心であった。遺体に衣類を着せたまま行い、棺に遺体を入れ、洞窟のような場所に遺体を安置し風化させる。洞窟は海岸に面していることが多く、潮風の影響で短い時間で遺体の風化を行うことができる。
沖縄で風葬が行われた理由と意味
当時の沖縄には火葬場が少なく、火葬できない遺体の数が少なくなかった。また、沖縄が島であるため火葬後の遺体の埋葬ができる土地が限られているためでもある。風葬後に洗骨し、再度埋葬をするため複葬と言われることもあり、洗骨し第2の葬儀を行うことで、子孫に幸福を呼び込むため行われている。そして、縁が深い者たちの手により、骨をきれいに洗ってもらう事で、ほんとうに「あの世」に旅立つことができるのである。
「洗骨」が紡ぐ命のバトンとは
重要なシーンとして、4年前に亡くなった柩の中の妻に再開する場面がある。亡くなったことをずっと受け止めることが出来ない様子が作中で描かれているが、洗骨を行うことで死と向き合うだけではなく、自分自身とも向き合っていたところが非常に印象深い。そして、映画の最後のシーンでは、長女が洗骨中に産気づき、海岸でそのまま出産を行うシーンが描かれている。はじめは洗骨と聞き、いざ遺体はどうなっているのか、子供もついてきているが大丈夫かと心配をした。子供は、怖くないかと聞かれて、自分の母親を生んだ人だから怖くないと言った。このように、洗骨は、亡くなる命と、新しく生まれる命をつなぐ素晴らしい習俗である。