宮城県や岩手県で見られる、台所に飾られた大きな人のお面のようなものがある。その表情は人の子を食べてしまいそうな迫力がある。それは「かまど神・かま神・カマ男」などと呼ばれており、怒ったような表情でその家の人を守っている神様である。
釜神は火難除け、窃盗避けの神
古縄文時代の竪穴式住居のかまどのそばでは、祭りを行っていた形跡が確認出来るが、それはライフラインがない中で『火への感謝・畏れ』として行ったとみられる。その後は密教僧からの教えで『荒神』へと名を変えた地域・時代もありながら、釜神は形を変えながら火難除け・窃盗除けの神として広く祀られ続けることとなる。今回紹介する釜神はなかでも宮城・岩手に残された人の面に作られた独特の風習が残した神様だ。
釜神をどこに祀るか
各家庭で多少のばらつきがあるもの、台所近くの大きな柱の上部に設置されることが多い。これは家の重要部である柱を体とし、釜神の頭が付いているというもので、釜神と家は心身一体だという事を表している。そのためか釜神の移動は原則禁じられており、その家がある限り釜神がいるという状態になっている。(主婦が亡くなると釜神を交代するという家もある。)
釜神の火難除け以外の効果
竈の神様・火の神様である釜神は火難除け以外にも様々な意味合いを持たれており、その迫力ある表情から子供のしつけに用いられたり、他にも商売繁盛の縁起物としても言い伝えが残されており、正月には綺麗に掃除され、米が供えられる。また婚姻や出生で家族が増えるとき、独立して家族が抜けるときなどは礼拝し、竈の火を分けるなど、その家族に密着した神様であることがうかがえる。
釜神の顔
従って、釜神は永久に飾れるようとても頑丈に作られることが求められる。手違いでの落下や破損は許されないのだ。その材質は土や木や石が用いられ、なかには強度補強のために藁が練りこまれたり、漆喰が塗られているものもあり、化粧が施されるケースもみられる。金箔が用いられたり口を開けている場合は、歯の部分に貝殻が使われるのだ。こうして、頑丈に作られた釜神は祀られた家で子孫に受け継がれながら大切にされていく。
現代の釜神
現代ではあまり関心が寄せられなくなり、目にする機会がなかなか少なくなっている釜神。職人の手作業での制作のためすべて一点ものである釜神は、世界に一つしかない我が家に置くには身近に感じることが出来る神様なのだ。
参考資料
■ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『竈神』
■武光誠 「知っておきたい日本の神様」