相続並びに相続税対策として有効なものは生前贈与や養子縁組等幾つか存在する。その内、使い方次第で効力を発揮するか、反対に大きな落とし穴になってしまうものがある。それは、生命保険、特に死亡保険金だ。
生命保険は相続において様々なメリットがある
一般的には相続税の生命保険非課税額(相続税法第3条他)を利用し、相続税額を減額させることを狙うものだ。具体的には次の算式にて計算する。500万円×法定相続人の数=非課税限度額となっている。また、相続税を納税する際には税額が多額になることが多く、金策に奔走する人を良く見かけた。このような状況を防ぐ目的で、死亡保険金を相続税の納付に充当するため、生前に生命保険契約に加入することも有効な対策となっている。
生命保険が逆に相続トラブルとなるケースとは
では、大きな落とし穴とは何かと言うと、死亡保険金の受取人に関するものだ。例を挙げると、ある夫婦が離婚したとする。当該夫婦には子供が居たが、死亡保険金の受取人は離婚前の配偶者のままで変更しなかった。そして、再婚せずに亡くなったため死亡保険金は子供には支払われず、前配偶者に支払われたのだ。このような例は偶に発生する。
離婚後は死亡保険金の受取人を元配偶者から変更しなければならない
筆者の体験だと、地元でも有名な会社を経営する一族が居たのだが、ある日当該会社の代表取締役社長を務める男性A氏と、その配偶者B子が離婚した。離婚の原因はB子の浮気によるもので、かなり悪質だったようだ。二人には当時高校生だった娘C子と中学生であった息子D君が居た。B子有責にて離婚が成立したのだが、筆者が生命保険契約の死亡保険金の受取人について、変更届けを保険会社に提出する旨伝えていた。しかし、日頃多忙を極めるA氏は変更届けの提出を失念していたのだった。
最高裁までもつれた結果、元配偶者に支払われることが決定した
離婚後、A氏は別の女性E子と再婚し、C子とD君は二人の希望通りA氏が親権を取得していたのだ。その後十数年経過したが、A氏は脳卒中にて急逝してしまったのだ。A氏は他に多額の財産を有していたため、残された家族は困窮することはなかったが、高額の死亡保険金は前妻のB子に支払われた。これを不服としてE子達はB子を相手取り、裁判となった。裁判の結果だが、一審では死亡保険金はE子達に支払われるべきとされた。しかし、二審ではB子に支払われるべきであるという正反対になり、最高裁まで争われることになった。最高裁の判断は、二審と同様のB子に支払われるべきとされ結審した。
防ぐことができた生命保険金の受取人トラブル
本来受け取ることができるはずであった死亡保険金を受け取ることができず、全く無関係な者が受け取る。見方によっては理不尽極まると考える。しかし、生命保険契約の内容を確認しておけば防げたトラブルではないだろうか。今一度自分が加入している生命保険契約を見直し、このようなトラブルを未然に防ぐことも相続並びに相続税対策として重要なのではないだろうか。