今、世界中で中国武漢発の新型コロナウイルスが猛威を振るっている。2019年12月に武漢市で発生した新型コロナウイルスによる感染症はまたたく間に中国全土に広がり、中国政府は1月23日、武漢市を都市封鎖し人の移動を禁止した。しかしその前に春節休暇で中国人が大挙して海外に旅行したため、アジア諸国、中近東、ヨーロッパ、アメリカへと感染が拡大し、今では世界193か国で感染者数288万人以上、死者数20万人以上となり、日本では感染者数12,907人、死者数358人となっている(4月25日現在)。
新型コロナウィルスの死者数は増える一方
イタリア、スペイン、フランス、アメリカなどのニュースでは教会に遺体の入ったおびただしい数の棺が並んで置かれており、葬儀と埋葬の順番を待っている様子が流れていた。他国に比べ日本での犠牲者は少ない方だが、その中にコメディアンの志村けんさんがいる。そして志村さんの兄志村知之さんの記者会見が波紋を呼んだ。感染防止のため最愛の弟の遺体との最後のお別れもできず、火葬場にも行けないためお骨を拾うこともできず、荼毘に付された遺骨の入った骨壺だけが自宅に届き、近親者だけでの葬儀を行うというのだ。遺族の誠に無念で悲痛な気持ちが伝わり、同情を禁じえなかった。
厚労省による新型コロナウイルスの犠牲者の葬儀について
厚生労働省は「新型コロナウイルスに関するQ&A(関連業種の方向け)」として遺体等を取り扱う方への対応が記載されている。
第1に遺体の扱いは24時間以内でも火葬が可能だが、必須ではない。
24時間以内に火葬しなければならないのは、法律で第一類感染症に定められた場合で新型コロナウイルスは感染症だが第一類には該当しないためである。
第2に感染防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等尊重した取扱をする必要がある。
第3に遺体からの感染防止のため遺体を非透過性納体袋に収容・密封することが望ましい。納体袋の表面を消毒する。
第4に継続的に遺体の搬送及び火葬作業に従事する者は必ず手袋を着用し、血液・体液・分泌物・排泄物などが顔に飛散する恐れがある場合には、不織布製マスク、眼の防護のためフェイスシールド又はゴーグルを使用する。衣服への汚染を避けるため、ディスポーザブルの長袖ガウンの着用が望ましい。
第5に遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合は、遺族等に手袋等の着用をお願いする。
条件を満たすことができる葬儀社は多くない上に、満たしたとしても…
以上の注意をすれば、通常の葬儀は可能であるとのことだが、中小零細の葬儀社では感染症用の防護服や葬儀用品の調達が困難で新型コロナウイルスにより亡くなられた方の葬儀の受けられないところもあるだろうし、準備ができる業者も会葬者や従業員の感染防止のため、さまざまの制限を設けることだろう。志村さんの場合もなんらかの感染防止対策上の支障があったのかもしれない。
遺族や参列者も通常の葬儀とは違い、相当制約を受けることは覚悟しなければならないだろう。
葬儀(通夜や告別式、火葬)は三密
日本では、感染源の分からない新型コロナウイルス感染者の増加やクラスター(集団感染)の多発、都市から地方への感染拡散から感染者が急増して、医療崩壊の危機を迎え、4月7日、政府は「非常事態宣言」を出し、営業自粛、テレワークの推進、不要不急の外出を控えるなど人と人との接触を8割減らし、密閉空間、密集場所、密接場面の三密を避けるよう強く要請した。
斎場や火葬場は営業中止の要請の対象にはなっていないが、三密の条件を備えており、クラスターの発生場所となる危険性がある。実際に愛媛県松山市で3月22日から23日に営まれた通夜と告別式に参列した21人の内、9人が新型コロナウイルスに感染したことが確認され、クラスターが発生したと見られている。
葬儀が三密を満たすことに対する斎場や火葬場の対応
これに対応して葬儀社や斎場、火葬場では通夜と告別式を1日で済ませるワンデー葬儀を推奨し、会葬者を10人程度の少人数に絞ることや会食の自粛を依頼しているところが多い。
社葬などは延期や中止が検討され、志村さんのように感染症が終息してから改めて「お別れの会」を実施する例もある。葬儀社や斎場、火葬場も館内の除菌を頻繁に行い、スタッフはマスクを着用し、参列者が利用しやすいよう各所に消毒液を配置し感染防止の徹底を図っている。
葬儀そのものだけでなく、業界全体への影響も必至
近年、葬儀業界は高齢者の増加に伴う死者の増加から葬儀件数の増加傾向が続き堅調に推移してきたが、一方都市部を中心に限られた近親者だけで行う家族葬や火葬場で簡単な読経を行うだけの直葬が増加し、一件当たりの単価は低下している。その背景には核家族化や少子高齢化、親戚の減少や親戚付き合いの希薄化、地縁の崩壊などの社会の変化が大きく影響している。こうした縮小化や簡素化の流れはこの新型コロナウイルス感染症が収まった後も加速するだろう。
異業種からの参入も多くなり、生存競争はますます激しくなり、心のこもったきめ細かい対応や終活サービス(遺言書作成、遺影写真、自分史作成)、遺体保管サービス、墓園・墓石業者の紹介、遺品整理、相続相談、遺族の介護施設紹介など顧客のニーズにあったサービスを提供できる顧客満足度の高い会社が生き残っていくことになるだろう。