民間の有料老人ホームの中には、入居時に「前払金」などの名称でまとまった金銭の支払いが必要なことがある。その額は建物の豪華さやケアの手厚さなどで異なる。それだけではなく、前払金の仕組みの中には、ホーム側の「入居者には何年後に死んで欲しいか」といった本音が隠されているという。
「毎月の支払いは年金額内に」が希望者多数
ホームは一般の集合住宅に比べて食堂などの共用部分が広い上に、入居者のケアに人手を必要とすることから、月々の支払額が100万円近くになることも珍しくない。「毎月の支払額は年金の範囲内に抑えたい」という入居者の声に応じて、毎月支払うべき費用の一部を入居時にまとめて支払う形にしたのが前払金だ。その額はゼロから1億円以上までと幅広い。また、その名称も「前払金」「入居金」「入居一時金」などと様々だ。
入居後に毎月一定額を償却
そして、この前払金は実際に入居が始まると、毎月一定額が償却される。例えば前払金が500万円、毎月10万円ずつ償却される場合、入居2年後には10万円×24カ月で240万円が償却されることになる。もし、この時点でホームを退去すると、500万円から240万円を引いた260万円が返金される。50カ月の時点で全額が償却され、退去しても返金はない。なお、これら毎月の償却とは別に、入居した時点で全体の1~3割程度を償却する初期償却という仕組みを併せて用いるホームもある。
償却分は売上として計上可能
これを、ホームの経営の観点からみてみよう。ホームは入居者から家賃や食費などの費用を受取っており、これらは当然売上として計上できる。そして毎月の償却分、例で言えば10万円も売上となる。しかし、それは入居して50カ月までで、それ以降は家賃や食費分しか売上が立たない。本来、毎月受取るべき額を軽減させるために導入したのが前払金なのだから、全て償却してしまった後の入居は、はっきり言って「赤字」だ。「全額償却した時点で退去してもらい、次の入居者が入って来る」のが経営的には最もプラスになる。そして、現在では有料老人ホームを退去する理由の9割以上が死亡によるもの。つまり、「前払金が全額償却される時期=それに合わせて入居者に死んで欲しい時期」ということになる。
長生きすれば結果的に得に
ホームは日本人の平均余命や同業他社の平均入居期間、想定する入居者の要介護度などを考慮して、前払金の償却期間を設定する。それを越えて長生きをすることが結果的にホームにお得に入居するコツになる。なお、ホームを管轄する自治体の中には、前払金の仕組み自体を「好ましくない」としているところもあり、ホームの中には前払金を廃止したり、前払金制度を使うかどうか入居者が選べる仕組みを導入したりするところが増えている。