関東地方を台風が直撃した日、電車がいつ来るかと待っていたら、近くに居た初老の男性と、その配偶者とお見受けした初老の女性の会話が耳に入った。曰く、相続税の申告なんて恐れる必要なんかない。俺が教えてやるから簡単だし、何も心配要らんよ。とのこと。立ち聞きが良くないのは重々承知しているのだが、思わず聞きこんでしまった。初老の男性は、かつて会計事務所に勤務していた経験があるように伺えたが、近年の相続税法や民法の改正について、あまり知らないようだった。素人が相続税の申告手続き、即ち自己申告について可能か否か。判断に困る面があるが、気になる方も多いのではないだろうか。
相続税の自己申告は可能だが…
結論を言うと、出来るがリスクは大きいとなる。その理由について簡単に解説してみよう。相続税法並びに関係法令について知識がある場合と無い場合で大きく異なってくる。知識があれば、それ程困難ではないのかもしれないが、知識が無いと自己申告は不可能に近いと言っても過言ではないものと考える。自己申告のメリットとデメリットについては以下のとおりとなる。
相続税の自己申告のメリット
メリットだが、高額になる税理士や弁護士への報酬がないこと、家庭内の諸問題が外部に漏れずに済むことだ。報酬は最低でも数十万円から数百万円になることも有り得るため、出費を抑えたいと考えることは無理からぬことだと言える。そして、個人情報もそうだが愛人関係を始めとした家庭内の諸問題を専門家とは言っても他人に知らしめることに忌避感を感じるのも当然なのかもしれない。
相続税の自己申告のデメリット
デメリットだが、最も懸念されることは相続税の申告期限(相続税法第27条他)までに申告手続きを終わらせることができるのかということだ。財産を有する人が亡くなったことを知った日の翌日から十ヶ月以内とされているのだが、内容を調査し財産を法令の定めるとおりに評価するだけで半年以上かかることもある。知識が無いと相続税申告書の作成を始めとした他の様々な手続きも正確にできない可能性がある。誤りがあれば、税務署による税務調査の対象となり、結果的に家庭内の諸問題が他人に知らされることになってしまう。当然、状況によっては重いペナルティが課せられることになるかもしれない。
相続税の自己申告はコストとリスクを天秤にかけて判断しましょう
矛盾するが、リスクを承知のうえで敢えて挑戦することについて否定はしない。しかし、自己申告には困難であると同時に大きなリスクと、ペナルティが待っていることを頭の片隅に置いておき、比較検討しておくべきであろう。筆者としては、税理士や弁護士等の専門家に相談し、一緒に対策を練っていけば安全かつ確実に申告することができると考える