自然葬とは、遺体や遺灰を特定の墓地ではなく山や海や成層圏などの大きな循環の中に回帰させようという葬送の方式のことである。
近年の日本では自然葬を望む傾向が急速に高まりつつあり、日本消費者協会の葬儀に関するアンケート調査(2003年9月)でも、自然葬について全体の55.8%が肯定的な回答をし、「墓地に葬ってほしい」の22.5%を大きく上回る結果が出ている。
「お墓に入る」とは寺請制度という政策の一つだった
そもそも死者を墓地に葬るという風習は、主に江戸時代に生まれたものだ。寺檀制度によって、死んだらお世話になっているお寺の墓に入らなければならないという政策によって人々に植えつけられた。つまりお墓に入るという事自体が、それほど古い歴史を持つわけではない。
これに対して、万葉の昔から日本人は自然との一体感や、死後は自然に還るべしという死生観を持ち続けてきた。墓地に葬って人工的な墓標を建てるより、自然葬のほうが本来の日本人の死者の弔いかたとしては当たり前だった期間のほうがずっと長いのだ。
自然葬が増加してきた4つの理由
現代になって自然葬の気運が復活してきた背景には、以下のような社会状況の変化がある。
・核家族化。少子高齢化が進んで墓の維持継承が難しくなってきたこと
・墓地の新規造成による自然破壊に批判の目が向くようになったこと
・多額の費用を要する「大きな葬儀」が敬遠されるようになったこと
・火葬の方法が進歩して自然葬(とくに散骨)に衛生上の懸念がなくなったこと
日本文化への個性を尊重する風潮の浸透も「葬送の自由」を求める声が大きくなってきた一因として挙げられるかもしれない。
自然葬には制限が設けられている
世界的には様々な自然葬が存在している。水葬・風葬・土葬・鳥葬・樹林葬・冷凍葬などがそうだ。その土地その土地の文化や風俗、習慣によって、死者を自然に還すやりかたには多くのヴァリエーションがある。
しかしながら実際問題として、日本では「墓地、埋葬等に関する法律」の制限のために、主に散骨と樹木・樹林葬だけが現状での自然葬に許された方法だ。
海や空への散骨がトラブルになったことはあまりないが、水源地や農地などへの散骨を地域住民が提訴した例もあるため、実際に散骨をする場合は注意が必要だ。
これからの自然葬について
現代日本の葬儀の多様化は、故人や家族の「より人間味のある葬送」への要望をそのまま反映する形で進んできた。公的機関も葬儀社も、その要望を可能な限り満たす方向へ舵を取りつつあるのも確かだ。山へ海へそして宇宙へ。われわれ人間の生活圏の拡大とともに「自然」はそのスケールを増しているが、近い将来、死者が自然に還っていく葬儀の形が主流を占めることになる可能性はある。
それは華美な葬儀が当たり前だった時代に、現在の家族葬のような小規模な葬儀が流行するとは誰も想像しなかったのと同じように、だれも否定できないだろう。