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福岡市東区箱崎で毎年7月に行われる地蔵まつり「人形飾り」とは

福岡市東区箱崎には「人形飾り」という、子どものための地蔵祭りがある。お地蔵様の縁日にちなみ、毎年、7月23、24日に子どもたちの無病息災を祈って、素焼きの「ひねり人形」を飾るものだ。

福岡市東区箱崎で毎年7月に行われる地蔵まつり「人形飾り」とは

現在の「人形飾り」に至るまでの過程

戦前から戦後の高度経済成長期前後までの「やり方」は以下の通りだった。子どもたちは箱崎浜や郷口(ごうぐち)川に行って、美しい砂を採ってくる。そして近在の地蔵尊からいただいてきた「お地蔵様の石」を中心に据えて、家族総出で、箱庭の中に人形を飾りつける。人形の飾り方や世界観、そして箱庭そのものの大きさは各家によって異なるが、お宮の祠・鳥居・灯篭などに加えて、きつねの酒盛り、忠臣蔵の討ち入り、戦国武将・岩見重太郎のヒヒ退治、亀に乗った浦島太郎などに加え、肉弾三勇士などの「戦争もの」の人形もあったという。飾り付けが終わった夕暮れ時に、子どもたちは皆、線香を持って、家々の玄関先や軒下に置かれた箱庭を鑑賞する。そしてその後、お地蔵様にお参りに行くのだ。それは夜の更けるまで続いたという。確かに現在でも、箱崎地区において「人形飾り」は行われているが、かつてのように大規模なものではなくなってきた。その理由として、「人形を作る職人芸が衰退した」ということと、「街並み、家の作りが変わった」が考えられる。

こうした状況を憂いた地域の人々から、1982(昭和57)年に原田地区全体で人形飾りの復活が企図された。人形師の指導により、子どもたちに人形をひねらせ、窯で焼いて着色し、祭りの際に展示したりするなどの試みがなされた。そしてそれは一過性のものに終わることなく、今日もなお、続いている。

南北朝時代、戦で討たれた武将を弔うために始まったとされる人形飾りだが…

箱崎の「人形飾り」がもともと、何をきっかけに始まって、それが戦後の高度経済成長期まで長らく継承され続けていたのかは、今となってははっきりとはわからない。言い伝えによると、南北朝時代の1336(建武3)年に起こった多々良浜(たたらはま)の戦いにおいて、後醍醐天皇側についていた肥後の菊池氏の武将たちが足利尊氏側に討たれ、この地に落ち延びた。そうした霊を弔うためであるとも、近在の箱崎浜で亡くなった人々の供養のためとも言われている。

また、「人形飾り」が「お地蔵様の縁日」に行われるということから、箱崎における地蔵菩薩信仰との関わりの中で営まれてきた行事だと考えられる。

箱崎での地蔵菩薩信仰とも関係があるという人形飾り

地蔵菩薩の信仰は、平安時代以降に多く見られるようになってきた。末法思想や浄土教信仰の広がりの中、地獄絵図に描かれた、地獄の責め苦を身代わりになって受けてくれる献身的な地蔵のありようが、貴族階級を中心とした人々の間に深く浸透したのだ。その後、中世後期には、我々がよく知る、賽の河原で鬼にいじめられている子どもを助け出し、極楽浄土に導く地蔵のありようが『地蔵和讃』などで説かれるようになってからは、幼児の成長を見守り、夭折したときにはその死後を救い取ると信じられるようになっていった。やがて近世中・後期には、地蔵菩薩を中心とした、「子どもの楽園」的なイメージへと変化していったという。

特に地蔵菩薩が子どもと結びついたのは、清潔な環境が整い、医療が進んだ現代とは異なり、子どもの死亡率が極めて高く、また、子どもの生命を脅かす病も多く蔓延していたため、親たちは子どもの健康・安全を、子どもを助け出してくれる「お地蔵様」に必死に祈るようになった。また、子どもを早くに失った母親の罪悪意識を救済する意味合いもあった。しかもこのような地蔵信仰は、必ずしも寺院主導で行われるばかりではなく、縁日の24日またはその前日の23日に、ムラの人々が地蔵堂や宿に集まり、『地蔵和讃』や念仏を唱えて地蔵菩薩像などを拝み、その後、共同飲食を行う「地蔵講」となっていったのだ。しかも地蔵信仰は本来、古くから存在した、地霊・祖霊の信仰だったものが、仏教伝来以降、「仏教的」な色合いを帯び、その「原型」を辿ることが困難になっている場合も少なくないという。

人形飾りには欠かせないお地蔵様の石

また、「人形飾り」になくてはならない「お地蔵様の石」だが、恐らく、「賽の河原」と関連があるのではないだろうか。

賽の河原とは、子どもが死んで赴くところで、それは死者が必ず行かねばならない冥土の手間にあるとされる。しかしそれは仏教の具体的な経典に記されたものではない。日本独特のものだ。民俗学者の佐治靖によると、「賽の河原」の由来には、3つの説があるという。1つ目は、鎌倉時代の『撰集抄』に大和添上郡(現・奈良県桜井市)の率川で、狭井川、佐韋川、子守川に由来するというもの。2つ目は、道祖神・塞(さい)の神など、境界に祀られる「境の神」の意と同義とするもの。3つ目は山城国紀伊郡佐比の里(現・京都市南区)の河原が、古くから農民の埋葬地だと定められていた。しかもただ遺骸を埋葬していたばかりではなく、石を積んで塔婆に模していたことに由来するものだという。現在でも青森県下北半島の恐山、五所川原市金木町川倉など、全国各地に「賽の河原」が伝えられているが、それらは必ずしも墓地ではない。しかし、そこにまつわる伝承には、「死者の魂が行くところ」、しかも子どもの霊や、未婚の男女の霊がさまよう場所だと言い、石を積み上げることによって、墓とは違う形で死者を供養しているのだ。

そして供養としての石積みの習俗の例として、宮城県気仙沼市唐桑町(からくわちょう)の地福寺(じふくじ)境内の「賽の河原」には、子どもの供養、石積みを手伝うと早く極楽に行ける、と信じられているという。それは、子どもの不安定な霊魂の安定化をはかるため、それと同時に、不安定な死者の霊魂を象徴していると推察される。

未来の人形飾りはどうなるのか

果たして、100年後、200年後の箱崎の「人形飾り」、そして地蔵信仰は、どのような形になっているのだろうか。その際、忘れてはならないのは、長く生きることができなかった昔の子どもたちの魂の安寧だ。「人形飾り」の中心に据えられた「お地蔵様の石」には、そうした子どもたちの魂が、時代を超えてお地蔵様のご縁日の2日間だけこの世に戻ってきて、箱庭に演出された世界の中で、生き生きと動き回っているのではないだろうか。

参考文献

■古田鷹治1983/2014年「箱崎の人形飾り」『古田鷹治遺稿集 箱崎に生まれて』古田スヱ子(自費出版)(96−101頁)
■石川純一郎「地蔵信仰」新谷尚紀・関沢まゆみ(編)『民俗小事典 死と葬送』2005年(367−368頁)吉川弘文館
■佐治靖「賽の河原」新谷尚紀・関沢まゆみ(編)『民俗小事典 死と葬送』2005年(30−32頁)吉川弘文館
■「箱崎人形飾り」『箱崎伝統文化保存会』2005年
■唐澤富太郎『図説 明治百年の児童史 <下>』2010年 株式会社日本図書センター
■柴田純『日本幼児史 子どもへのまなざし』2012年 吉川弘文館
■「箱崎人形飾り」『とびうめ信用組合』2015年7月6日

ライター

鳥飼かおる(掲載日:2018/08/07)

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