葬儀の出棺時に棺をぐるぐると3度回すしきたりは「三回回し」や「棺回し」といい山梨県、兵庫県、広島県、大分県、熊本県などの一部に見られる。その場で回したり庭に出て回したり、墓地で回したり、逆に遺族が棺の周囲を回ったりとやり方は多種多様だが、いずれも棺を回す事で故人の方向感覚を狂わせて家に戻ってこないようにする為と言われている。他にも四辻の度に葬列が止まって棺を回したりする地域もあるが、これは道が分かれる場所で棺を回す事でどこから来たのか混乱させる為である。また四辻で棺を回す際に、併せて「鐃(にょう)はち」という銅鐸のような仏具を盛大に鳴らすのも、音で魂を惑わせる為と考えられている。
棺をぐるぐると3度回す習俗の由来とは?
こういった習俗は今までの現世での罪を無くす滅罪信仰からきているという説もあるようだ。「回る」という行為は古代日本において人と神霊が繋がる儀式とされていた。これらは仏教儀礼における行道という経典を読み上げながら仏前を回る事とも結びつき、古来より行われて来た修験道や山岳仏教の儀礼とも結びつく。
現在でも四国遍路などのように島や山を回るという信仰へと発展し、聖なる場所を回ることにより今までの罪が滅びるという滅罪信仰ともなるのだ。そして、修験道や山岳仏教の影響を受けた末に、古代日本の鎮魂儀礼に仏教的・修験道的信仰意義が加えられ、棺を回すことにより死者の魂は修行の実践を行う。これらの信仰的意義が失われていき、後に死者が家に帰らないように迷わせる為という俗信へと変化したのだろう。
棺を3度回すのは、過去・現在・未来を意味するとも言われている。また愛媛県では4人で棺を担ぎ3度左へ回し、道の中央に止まり、今度は葬列が棺の周囲をぐるぐる回るといったしきたりが見られるが、実は右に回す地方と左に回す地方の両方があるのだ。仏教の行道では本尊の周囲を右回りに回る為、行道に習って右回りが正しいとする説がある一方で、左回りは逆回りをする事で死霊封じの為に広まったという説もあるようだ。
地域独特の葬儀習俗はまだまだ存在する
今回調べていく中でもまだまだ出棺に関する面白い風習が見つかった。故人の茶碗を割ったり鳩を空に放ったり、また金魚を池に逃がす所もあるようだ。
これらはまた詳しく調べ上げた後に述べていきたいが、こうまで地方により多数の風習が存在していると、日本人の生死に対する畏怖の念とは実に色々な形で表されているのだと感じる。古来の習わしが変化して来たもの、脈々と受け継がれてきた「心」が現れている風習を我々日本人は守り続けていかねばならない。