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再生紙がその昔「還魂紙(かんこんし)」と呼ばれていた理由と当時の紙事情

デジタル化が進み、昔ほど無駄遣いが減ったとはいえ、依然として我々は当たり前に大量の「紙」を消費している。しかし、環境問題が今日ほど深刻なものとして語られるようになるはるか以前から、日本では供養や仏道修行と結びつけられる形で、紙の再利用が行われていた。

再生紙がその昔「還魂紙(かんこんし)」と呼ばれていた理由と当時の紙事情

紙の起源や伝来時期

そもそも日本における「紙」こと「和紙」とは、植物繊維を何らかの方法で分解し、水に分散させた後、簀(すのこ)または網状のもので漉いて、乾燥させたものである。日本における「紙」の始まりは、『日本書紀』の推古天皇18年(610年)の条に、「高麗王、僧曇徴(どんちょう)が絵の具・墨・紙・碾磑(てんがい、石臼)を作った。碾磑はこの時にはじまるか」という記述がある。このことから、碾磑以外の3品は既に存在していたこと。そして朝鮮半島における造紙が、仏教が伝来した4世紀後半に始まったと言われていることから、そこで発達した技術が、曇徴来日前後に日本にも伝わっていたと考えられている。そしてその原料は、中国の前漢時代同様、着古しの麻布を短く切ったものだった。しかし日本においては、麻は貴重品で、ほとんど流通していなかったため、容易に手に入る楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)を用いるようになったのである。

「還魂紙」と呼ばれるようになった理由

また原料の入手のみならず、製作に手間がかかることから、当時の日本では今日の比でなく紙は貴重品だった。それゆえ、紙を使う人物の地位によって、使うことができる紙の種類が細かく決められていた。それに加えて現在同様、紙の再利用、すなわち、使い古しの反故(ほご)紙を細かくバラバラにした後、一旦水に晒して液状にし、それを再び漉き直した「漉き返し」が行われていた。しかもそのような、墨の色がうっすらと残る紙に対して「還魂紙(かんこんし)」とも名づけられていた。

中国と日本における紙の再利用の違い

もともと紙の再利用は中国でも行われていた。その際、「魂」が還ってくる、生まれ変わりといった本来の語義から離れ、当時の官吏登用試験であった科挙に1度は落第したものの、再考試の結果、合格した人物を「還魂秀才」と呼んでいたことから、1度用いたものを再利用することに用いた言葉だった。それが日本においては、中国での現実的な意味のみならず、故人ゆかりの紙を再利用し、経典を写経することで、故人への供養、そして仏への信仰を強くする風習として長く定着するようになったという。

日本霊異記に登場する紙の再利用の話

例えば『日本霊異記』(822年頃)の第38話では、延暦6(787)年9月に、紙の再利用の話が登場する。僧になったものの俗生活を送っていた景戒(きょうかい、生没年不明)が貧しい暮らしをしていたところ、ある日の夢に、沙彌

鏡日という乞食僧が現れた。景戒が米を鏡日に施したところ、鏡日が書物を取り出して、それを写し取れと言った。見ればとてもすばらしい経典集だった。しかし貧しい景戒には紙がなかった。どうしたらいいかと鏡日に尋ねたところ、この紙を使いなさいと、反故紙を渡した。そして鏡日は、今から別のところに乞食行脚に行くが、自分が戻ってくるまでに経典を書き写しておきなさいと言い残して、去って行った。

この夢の意味として、沙彌鏡日という乞食僧は実は観音菩薩で、迷い苦しんでいる人々を救うために現れたもの。写経に反故紙を使うことは、もともと善の素因である仏性があっても、表面には現れてこないが、善を積むことによって後に悟りの境地に至るようになることを表しているとして、紙の再利用が仏道を極めることにつながると説かれている。

日本三代実録にも登場する還魂紙

また、『日本三代実録』(901年)、『今鏡』(1170年頃)、『十訓抄』(1252年)、『吾妻鏡』(1300年頃)などに、清和天皇(850〜881)の女御・藤原多美子(?〜886)が行ったとされる、「還魂紙」のエピソードがある。仏門に入っていた天皇が崩御した後、それに従って尼になっていた多美子は悲しみの中、天皇が残した多くの手紙類を集め、それを再び漉き返し、法華経など多くの経文を写経した。その行為は生前受けた天皇からの恩徳に報い、手厚く供養すること、自身の仏道への誓いを強く立てたものであったため、大乗戒を受けたという。景戒のような僧侶が行ったわけではなく、貴族であった藤原多美子が「還魂紙」で写経を初めて行ったかどうかは、今となっては確実なことは言えないが、このことが後世に語り伝えられることを目的とした、当時の歴史書に何度も書き残されていたことは、特筆に値する。

また多美子は、天皇が書き記した紙だけではなく、その遺髪をも漉き込ませていたという説もある。世間全般に広く定着することはなかったが、そのような紙を用いて法華経などの書写がなされていたものは「毛髪経」と呼ばれていた。更に紙を漉き直すばかりではなく、故人が生前に書き記した紙を集め、その裏側に雲母を引き、細かく砂をまいた後、金の罫線を施して写経することもあったという。

現代における紙の再利用事情とデジタル化

現在の我々が紙の再利用というと、新聞がかつてより読まれなくなったとはいえ、新聞紙は60%以上が再生された新聞古紙パルプが原料である。また、新聞紙よりも色の白い印刷用紙などの古紙は主に、トイレットペーパーに再生されていることなどしか思いつかない。しかし仏教に対する信仰心が現在の比でなかった平安期においては、1.物の精霊 2.人間を見守り続ける、人間の精霊 3.体内から抜け出して行動する遊離霊 4.死後もこの世にとどまって見守る精霊 など、「魂」の語義そのままが反映した「還魂紙」、すなわち亡くなった人の書き損じや、時に遺髪すらも漉き込んだ紙でお経を写し、供養の祈りを捧げていたのである。

現在の我々が当時の人々のように、写経のみならず、亡くなった人の書き損じや遺髪を用いて再び紙を作ることはとても難しいことかもしれない。だが、たとえ西洋紙であっても、供養のための何らかの特別な再利用ができないものか。デジタル化が進み、「紙」を用いることが以前に比べ、格段に少なくなった今だからこそ、痛切に思う。

参考文献

■佐伯有義(編)『増補 六国史』1940年 朝日新聞社
■寿岳文章『日本の紙』1967年 吉川弘文館
■黑坂勝美・國史大系編修會(編)『新訂增補 國史大系 第一巻下 日本書紀 後篇』1967年 吉川弘文館
■大野晋・佐竹昭広・前田金五郎(編)『岩波古語辞典 補訂版』1974/2014年 岩波書店
■植村和堂『写経 見方と習い方』1982年 二玄社
■出雲路修(校注)『新日本古典文学大系 30 日本霊異記』1996年 岩波書店
■岡田英三郎『くわんこんし 還魂紙 –歴史にみる紙のリサイクル』2002年 私家版
■岡田英三郎『紙はよみがえる –日本文化と紙のリサイクル』2005年 雄山閣

ライター

鳥飼かおる

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