川沿いや田んぼのあぜ道などで、この時期になると突然現れる花がある。ヒガンバナ、別名をリコリスや曼殊沙華という。
赤い特徴的な花弁を持つが、どうして「彼岸」の名前を持つようになったのだろうか。あまり良くないイメージが持たれることは多いが、実際はどのような花なのだろうか。
ヒガンバナについての基礎知識――人の死に関わる不吉な花!?
秋の彼岸が近づくころ、ヒガンバナは道端に突然咲き始める。茎を持たず、放射状に開いた真っ赤な花弁を持つその様子は、普通の植物らしくなく 見る者をどきっとさせる。『ヒガンバナ(彼岸花)』という名前自体も、咲く時期に合わせてつけられたものだ。
ヒガンバナは有毒植物であり、食べると吐き気や下痢を引き起こすことがある。最悪死に至ることがあるため、虫やネズミなどの田を荒らす動物も近づかず、害虫・害獣除けのために田畑に植えられたとする説もある。ヒガンバナという名前については開花時期による由来とは別に、この毒性を由来とするという説もある。
つまり、「これを食べてしまった後には『彼岸』しかない」、すなわち 必ず死んでしまう、ということだ。
ヒガンバナは異名や方言が多いことでも有名である。その数は、地域によって細かく分類すると1000を超えるという。その中でも目立つのが、なんだか不吉な印象をもつ名前。『地獄花』『死人花(しびとはな)』『毒花』『幽霊花』など・・・いずれも死を連想させるものが多い。
ヒガンバナはおめでたいもの!? 別名『曼殊沙華』
前述したように、ヒガンバナの別名に『曼殊沙華(まんじゅしゃげ)』というものがある。これは仏教の経典に由来するものだが、実はサンスクリット語で『天上に咲く花』という意味なのだ。
仏教経典での曼殊沙華は、柔らかく白い花で四華のひとつに数えられる。天人が雨のように降らせる、あるいは地上でめでたいことが起こるときに天から降り注ぐと言われている。それを見る者は心が洗われ自然と悪行から離れていくそうだ。
ちなみにヒガンバナの学名である『リコリス』は、ギリシャ神話の中に登場する海の女神リュコリス(Lycoris)に由来するそうだ。いずれにしても、日本でよく言われる不吉な死のイメージからはずいぶん離れているように思える。
土葬とヒガンバナ
かつて日本で土葬が主であったころ、遺体は葬儀のあと火葬されることなく 棺桶に入れ、そのまま土に埋葬されていた。そうなると土の中にいるモグラやネズミが、埋葬された遺体に悪さをしてしまう。
先ほど述べたようにヒガンバナには毒があり、害虫や害獣を寄せ付けない。そのため昔の人は遺体が損なわれるのを防ぐために、遺体が埋葬されているお墓の周りに ヒガンバナを植えたそうだ。
結果としてヒガンバナには死に関わる悪いイメージがついてしまったが、この毒のおかげで墓の周りには モグラやネズミは寄り付かなくなったそうだ。不吉だからと嫌われているヒガンバナは、大切な遺体を守る役割を果たしていたのである。
最後に…
不吉なイメージとおめでたいことの前兆、二つの相反する性質をそなえたヒガンバナ。異名の多さや迷信の多さも、日本人がいかに長くヒガンバナと接してきたかを表すものであると言えるだろう。
ヒガンバナの見ごろはちょうど秋のお彼岸のころ。9月中旬から10月にかけて、各所で咲いている様子を見ることができる。近所の田んぼを散歩がてらに覗くのもよいし、少し遠出して名所を訪れ一面の赤を見るのもよいだろう。一度足を運んでみてはいかがだろうか。