朝夕めっきり涼しくなりました。「暑さ寒さも彼岸」まで、この言葉を実感する昨今です。
『彼岸』とは三途の川の向こう側、悟りの世界のことだそうです。煩悩に満ちたこちらの世界『此岸(しがん)』から死してのちには彼岸へ行けるように、彼岸の入りから彼岸明けまでの一週間、仏道修業をするためにこの期間をお彼岸というようになったとか。
そして、その一週間の真ん中は彼岸に行った先祖を供養する日、お中日(ちゅうにち)と呼ばれて現在は秋分の日の祝日になっています。
お彼岸と切っても切れない関係のおはぎ・牡丹餅
さてそのお彼岸に欠かせないのが『おはぎ』。今ではいつでも食べられるようになりましたが、それでもおはぎだけはお彼岸の時しか作らないという和菓子屋さんもあるほどで、お彼岸とは切っても切れないものとなっています。
このお菓子、今はおはぎと呼ばれることが多いように思われますが、牡丹餅とも呼ばれますね。その違いはどこにあるのかというと、実ははっきりしないそうです。こしあんが牡丹餅、つぶし餡がおはぎであるとか、中をちゃんとついたお餅を餡でくるんだものが牡丹餅、半搗きにしたものがおはぎであるとか、あんこでくるんだものは牡丹餅、黄粉をまぶしたものがおはぎといろいろな説があるのです。
中でも美しいと思うのが牡丹の花が咲く春のお彼岸に食べるのが牡丹餅、萩の花の咲く秋のお彼岸に食べるのがおはぎ。だから春は牡丹のように大振りでふっくらと、秋は萩の花に見合うように小さめに作るという話です。花にちなんでお菓子を作る、先人の豊かな心が感じられるようです。
春はこしあん、秋はつぶし餡の理由とは?
ところで春のお彼岸に食べるのはこしあん、秋はつぶし餡という説には一応理由があるようです。小豆の保管が十分でなかったころ、冬を越した小豆は皮がかたくなって食感が悪いので皮を取ったこしあんに、新豆の柔らかいものはつぶし餡で味わうということだったようですが、そうかもしれないと納得できるものがあります。
現在、つぶしだろうとこしあんだろうと一年中おいしく味わうことができます。またおはぎには黄粉やゴマ、ところによっては青海苔をまぶしたものもあり、通年を通して人々に愛されています。
暑さが収まり食欲の戻ったころ、先祖の墓や仏壇に供え、そして秋の恵みを感謝しながら食べる甘いおはぎはまた格別。そんなお菓子と相まって、お彼岸とは誠に日本人の風土に根ざした行事だと思わされるのです。