浴衣のような簡単な着物類を着て、「前の合わせ方が逆だ」と注意された経験はありませんか?
これは左前と言って、経営がうまくいかないことのたとえで使うこともありとても忌み嫌われることです。
なぜかというとお葬式の時、死者に着物を着せる時のやり方だからです。
経帷子とは?
お葬式では色々なことに特別なやり方をするのは皆さんご存知だと思います。
死者に着せるものも特別な着物で、経帷子(きょうかたびら)といいます。帷子とは裏地のついていない単衣の着物のことで、死者には白い単衣の着物に「南無阿弥陀仏」などのお経を書きそれを左前に着せ、あの世に送る習わしなのです。近頃では葬儀社の方が出来上がった経帷子を持ってきて着せることが一般的になったようですが、ちょっと昔は自宅で縫ったものでした。
経帷子についてのあれこれ
地方によっての差はあるでしょうが普通はお通夜の前、親戚の女性たちが寄り合ってそでや襟や身頃など各パーツ・パーツに分けて縫っていきます。
そのとき糸の最後に結び目は作りません。切りっぱなしの糸で縫います。また返し縫もしません。これは急いで仕上げなければならないからという合理的な理由もあるのでしょうが、死者に着せるものはなるべく逆にしなければならないということ、また一人の人にだけ念がいかないようになどの理由もあったようです。
だから普通の着物を仕立てるときは一人の人が最初から最後まで仕上げ、分業してはいけないと言われていたものでした。また糸止めや返し縫いをしないのは、この世に思いをとどめない、この世に引き返さないという縁起担ぎもあったといいます。
ただ聞いた話ですが、ある程度の年齢になった女性は自分で自分の経帷子を縫って旦那寺へ持って行き、経文を書いてもらいってタンスの奥にしまっておいたとか。その作業をする女性達の気持ちに思いをはせると襟を正さざるを得ません。
自分が着たいと思う死装束を準備しておくのも一つの終活
近頃では経帷子を着せず、亡き人が好きだった洋服を着せて見送る場合もあると聞きます。ただお葬式は一種の卒業式、この世にお別れをして新しい旅立ちをする式でもあります。それなりの装いをして旅立ってもらうことで、死んだ方にも身内の方にも心のけじめがつくのではないでしょうか。かといって今まで着物に縁のなかった人にしきたりだからと言って経帷子にそでを通させることに抵抗があるのも無理からぬこと。
ここはひとつ昔の女性たちにならってご自分で用意するのはどうでしょうか。白いドレスや作務衣など、ご自分が着たいと思うスタイルの服に経文等を書いておくのです。どんなものを着ようと考えていくうちに、お葬式のやり方なども考え終活の一つにもなると思います。