現代では地域ぐるみで子どもを育てる文化がなくなってきている。近所付き合いや親戚付き合いも希薄になり、高齢者と触れ合ったことがない子ども、子どもと触れ合ったことがない高齢者が増えている。そんな中、子どもにまつわる社会課題を解決する手段として、幼老複合施設が注目を集めている。
幼老複合施設とは、老人ホームなどの高齢者施設と、保育所などの子ども向け施設が併設されている施設のことだ。幼老複合施設では、小学校に行く前の小さな子どもと高齢者が交流することもでき、高齢者と子どもの交流によるメリット以外にも、様々なメリットがある。
子供にとっての幼老複合施設のメリット
小学校の放課後、子どもを夜まで預かる学童保育施設は不足状態にあり、学童保育の待機児童数は増加傾向にある。待機児童問題の解決策として、子どもの新たな居場所となっているのが学童保育サービスを備えた介護施設となりえる幼老複合施設だ。放課後になると小学生が介護施設に遊びに来て、勉強をしたりおやつを食べたり、高齢者と一緒に遊んで過ごす。高齢者と子どもが交流をすることで、子どもに高齢者を労わる思いやりの心が芽生えるという。学童保育を必要とする子どもの両親は、共働きで忙しくしていることが多いため、高齢者とゆったりとした時間を過ごすことは、子どもにとって精神的な癒しとなる。
高齢者にとっての幼老複合施設のメリット
高齢者にとっても、子どもとの交流が良い刺激となり、精神的な活性化に繋がったり、子どもの面倒をみることに生きがいを感じたりするようになる。要介護状態となると、人の役に立っていないと悲観的になる高齢者が少なくない。子どもと交流することで、子どもに昔の遊びや高齢者ならではの知識を伝える役割ができ、生活に活力が生まれる高齢者も多いという。このような幼老複合施設の存在により、共働き家庭の夫婦はより働きやすくなり、地域ぐるみでの子育ての新たな形となりつつある。
幼老複合施設のその他のメリット
幼老複合施設のその他のメリットは、設備や人材を共有できることだ。通常、小さな保育所ではあたたかい給食を出したり、看護師を常時配置することは難しいが、高齢者施設と併設することでそれらが可能になる施設もあるという。また、介護スタッフの子どもを幼老複合施設に預けられる点も、スタッフの働きやすさに大きな影響を与える。重労働になりやすい介護や保育のスタッフだが、高齢者と子どもが交流することで、高齢者は子どもがうまくできるよう手助けしようとしたり、子どもは高齢者の意欲や笑顔を引き出したりと、それぞれがスタッフの役割を分担することもあり、スタッフの負担低減に繋がる。
幼老複合施設のリスクや注意点
一方で、幼老複合施設では感染症、事故のリスクに注意しなければならない。子どもも高齢者も、感染症に対する抵抗力が低い。そのため、集団感染を起こすことがないよう、交流の際には手指の消毒をはじめ、細心の注意を払う必要がある。また、認知能力や身体能力が低下した高齢者と、判断力の未熟な子どもが一緒に過ごすことで事故のリスクも高まる。走り回る子どもと高齢者がぶつかって怪我をしたり、高齢者の薬を子どもが誤飲する可能性があるため、事前にこのようなリスクをスタッフ、高齢者間で想定・認識をし、防止策を準備しておくことが重要だ。このようなリスクにさえ注意すれば、幼老複合施設により、待機児童問題や介護・保育スタッフの働き方における課題も解消され、高齢者も最期の役割を得ることによって、充実した老後を過ごすことができるかもしれない。