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病床に伏し常に死と隣合わせだった正岡子規と僧侶・清沢満之

病床にあって回復の見込みもなく、ただ死を待つだけの日々とはどれほど辛いものだろうか。その日々が緩和もされず苦痛に満ちたものだとしたら。そのような状況において救いを見いだせる道はあるのだろうか。

病床に伏し常に死と隣合わせだった正岡子規と僧侶・清沢満之

死と向き合う文学者

明治の文豪正岡子規(1967〜1902)。俳人、歌人、文芸批評などの分野で近代日本文学史に巨大な足跡を残した。子規は20代初めに肺結核を患い、数年後には脊椎カリエス(結核性脊椎炎)を発病して病床につき、二度と立ち上がることはなかった。しかし執筆の手は止めることはなく、激烈な闘病生活を綴った「病床六尺」にはその苦しさ、無念さが時には冷静に、時にはやけくそ気味に、ユーモアさえも交えて吐露されている。深刻なスピリチュアル・ペインに向き合う、文学者の意志と意地を感じさせる随筆だが、その 「病床六尺」によると、ある日、一通の手紙が届いたという。

一封の手紙

ー今朝起きると、一封の手紙を受取つた。それは本郷の某氏より来たので余は知らぬ人であるー

この「本郷の某氏」なる人物は「病床六尺」を読み、子規に伝えたい思いがあり一筆したためたとしている。
なお、「知らぬ」とは直接の面識はないというほどの意味らしい(山本、2014)。

ー拝啓昨日貴君の「病牀六尺」を読み感ずる所あり左の数言を呈し候ー

某氏は苦しむ子規が救われるかもしれない三つの道を示した。要約するとこうなる。

第一、天帝または如来が君と共にいることを信じよ。

第二、それが無理なら、人知の及ばないことだと悟って、現状を受け入れよ。痛いなら痛いに任せて自然の摂理に身を委ねよ。

第三、それすら無理なら、号泣しろ。煩悶しろ。とことん苦しんで死ぬのみ。

第一の道は神仏の存在を信じれば安心できるという文字通りの宗教的救済の道である。その対象は具体的な慈悲の手を差し伸べてくれるイエス・キリスト、アッラー、阿弥陀如来などの人格神、またはそれに類似する存在であると思われる。第二の道は、生まれたからには死ぬ。下手に抗わず自然のままに苦しみ、死を受け入れよと諭す。具体的な信仰心は無いが自然の摂理に従う道である。現代では最も受け入れやすい考え方といえる。そして第三の道。これは壮絶である。某氏は苦しいなら、ただ苦しむだけ苦しめと言っている。見苦しくても周囲に迷惑をかけても、気にせず格好つけず、人間の弱さをすべてさらけ出して死ねということだろう。

正岡子規の反応

子規はこの手紙に心を獲えられたとした上で、「『現状の進行に任せる』よりほかはないのである。号叫し煩悶して死に至るよりほかに仕方のないのである」と書いている。某氏の選択肢でいえば、今は第二の道に入っており、いずれは第三の道へということになるだろうか。

某氏はかつて自らも瀕死の境にあり「第二の工夫」によって「宗教的救済」を得て精神的に救われたと書いている。この某氏は真宗大谷派の僧侶で、宗教哲学者の清沢満之(1863〜1903)であるとされているが確証はない。清沢ではなく、弟子の暁烏敏(1877〜1967)であると推測する声もある。だが、某氏が清沢・暁烏のいずれであるとすれば、この手紙はどちらにせよ、浄土真宗の僧侶によるものということになる。つまり僧侶たる者が、第一の道である如来の存在を信じることができなかったことになる。それにも関わらず「宗教的救済」を得たとはどういうことなのか。

信じることが苦手な人間にこそ

浄土真宗の祖・親鸞の思想をまとめたとされる「歎異抄」には、著者の唯円が師・親鸞に、どうしても如来の救いや極楽往生を信じきれないと詰め寄る場面がある。これに対して親鸞は“自分もそうだ、そんな愚かな存在だからこそ救われるのだ”と応えた。人間は痛み苦しみに弱い悲しい生き物である。ただ苦しめばよい。救いとは苦しみとセットである。苦しいから救われる。苦しみがなければ救いもない。如来は如来を信じきれない、追い詰められた人間こそを救ってくれると説く。浄土真宗の本尊は阿弥陀如来だが、他宗派と異なるのは例外なく立像で、やや前のめりになっている。これは今にも救いにやってくる、救わずにはいられない如来のテンションが表現されているのだ。歎異抄は宗派内で危険な書とされていた。確かに信仰を持てない人間こそ救われるなどと説いているのだから教団としては極めて扱いにくい。清沢はその歎異抄を近代の世に広めた人物だとされている。

しかし、某氏は苦しむだけ苦しめと書いた後に「そんな君だから如来は救ってくれる」とは書いていない。子規に特定の信仰心など無く、そもそも、第二、第三の道にまで追い込まれた者に、そんなことを言っても絵空事にしか聞こえない。ただ「宗教的救済」の一節のみを挿し込んだ。あとは如来にお任せというところかもしれない。子規の死の一年後、清沢も同じ肺結核でこの世を去った。清沢もまた死の苦痛に煩悶していたが、最後には絶筆「我信念」で如来を信ずるに至ったと書いている。こうした清沢の境地については稿を改めて考察したい。

宗教の役割

現代では緩和ケアの技術も発達しており、QOLが重視されている。それでも、なぜこれほど苦しまなくてはいけないのかなどのスピリチュアルペインを克服するのは困難である。安楽死・尊厳死についてもまだ議論は突き詰められてはいない。宗教にマイナスなイメージが報じられる昨今だが、死と向き合う人のために、清沢満之(と思われる人物)が提示した「宗教的救済」について改めて考えてみる必要がある。

参考資料

■正岡子規「病床六尺」岩波文庫(1984)
■今村仁司編訳「現代語訳 清沢満之語録」岩波現代文庫(2009)
■唯円 著/千葉乗隆 訳注「新版 歎異抄」角川ソフィア文庫(2013)
■神戸和麿「清沢満之の生と死」法藏館(2000)
■山本伸裕「清沢満之と日本近現代思想ー自力の呪縛から他力思想へ」明石書店(2014)

ライター

渡邉昇(掲載日:2023/03/01)

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