お寺で五輪塔をよく見かけるが、五輪塔は元々墓や供養塔である。五輪塔はインドが発祥という説もあるが、インド、中国、韓国には残っていないため、日本が発祥であるという説が有力である。密教によって作られた五大(地、水、火、風、空)をかたどった塔である。平安時代後期の真言宗の覚鑁上人(かくばんしょうにん 1095~1144)が「五輪塔を建立して供養を行うと、故人が成仏し往生できる」と説き、全国的に広まった。覚鑁上人は「真言宗中興の祖」といわれており、『月輪観』『五輪九字明秘密釈』の著者である。この『五輪九字明秘密釈』が五輪塔のもととなった。
覚鑁上人とは
覚鑁上人は興教大師という大師号も送られている。大師号とは徳の高い僧侶に天皇陛下から贈られる諡名で、現在までに25人の僧に送られている。ひとりの僧に複数の大師号を送られる場合もあるため、人数としては25人である。しかし「大師は弘法に奪われ、太閤は秀吉に奪わる」と江戸時代から言われるように、「大師」といえば弘法大師を思い浮かべる人がほとんどである。令和になってからも大師号を送られた僧がいる。黄檗宗の隠元である。しかし複数の大師号を送られる場合もあると先ほど述べたように、隠元はこれで三度目の大師号である。
名前の由来は?有名な五輪塔といえば?
五輪塔は四角、円、三角、半円、宝珠の形をしており、それぞれ、地、水、火、風、空を表している。鎌倉の源頼朝の墓が五輪塔で有名である。
元は真言宗が始まりであるが、他の宗派にも広がり、日本中にある。また卒塔婆は木製の板であるが、形は五輪塔と同じである。また身分に関係なく五輪塔は墓石として作られた。
地、水、火、風、空は五輪なので、それぞれ「地輪」「水輪」「火輪」「風輪」「空輪」であり、それぞれ色がある。黄、白、赤、黒、青である。五輪塔は石作りが多いため色はついていないが、木製のものは着色される場合もある。寺の装飾にこの五色が使われるのはこの思想が理由となっている。
宗旨宗派別の五輪塔
真言宗は発祥なのでもちろん五輪塔の建立は当たり前で、梵字が刻まれる。梵字の意味は「空」「風」「火」「水」「土」である。
天台宗も密教なので五輪塔は建立するが、「南」「無」「阿弥」「陀」「仏」の場合と、梵字の場合とがある。
浄土真宗では基本的には五輪塔は建立しない。浄土真宗は阿弥陀仏の力によって極楽往生できるため、追善供養は不要であるという考えだからである。
浄土宗は供養塔として建立する場合もある。その時は梵字を刻むのではなく「南」「無」「阿弥」「陀」「仏」と五つに分けて文字を刻む。
曹洞宗、臨済宗も五輪塔を建立することがあり、「空」「風」「火」「水」「土」と刻まれていることが多い。
日蓮宗は「妙」「法」「蓮」「華」「経」が刻まれている。
五輪塔は江戸時代中期に現在のような墓石が主流になって作られなくなってきたので、五輪塔の墓は古いものだと言える。