仏教の宗派はとても多く、さまざまな年中行事が各寺で行われている。その中でも、即身成仏の考え方を持ち、弔い方に特徴がある浄土真宗で最も大切にされている行事が「報恩講(ほうおんこう)」である。名前を聞いたことがあるが、何をする日なのか?とご存じでない方は多い。浄土真宗の開祖や、報恩講の由来や目的について解説する。
浄土真宗の開祖「親鸞聖人」について
浄土真宗の開祖は鎌倉時代の仏教家「親鸞聖人」である。9歳の時、天台宗の寺院である青蓮院(しょうれんいん)に入り、天台宗の総本山である比叡山延暦寺の住職である天台座主の慈鎮和尚(じちんかしょう)【慈円】のもと、天台宗の僧侶になって出家をした。そして、比叡山延暦寺で20年に渡って厳しい修行を積むが、悟りを開くことができず、29歳の時、比叡山下山し、法然上人を訪ねることとなる。法然上人は、平安末期から鎌倉時代の僧侶で、浄土宗の開祖である。念仏を唱えるだけで救われるという教えで、修行や、寺に寄進することができない庶民に広く支持され、親鸞聖人もその教えに触れた一人だった。法然上人は人々に救いの道を多く開いていくが、今までの仏教を軽視しているとされ、後鳥羽上皇により法然上人は土佐へ、親鸞聖人は越後に流罪となる。流罪から4年後、法然上人は79歳で京に戻ることが許されたが、翌年病の為その生涯を閉じた。その後、親鸞聖人も同じく流罪から解放され、常陸国で布教活動を行っていく。62歳で京に帰り、執筆活動や布教活動を行い、1262年11月28日(享年90歳)で入滅する。その後、報恩講は、親鸞聖人の御祥月命日に勤まる法要となり、11月28日を中心に全国各地の寺で開催される行事となったのである。
報恩講について
報恩講は、浄土真宗3代目で親鸞聖人のひ孫である覚如上人が親鸞聖人の33回忌の年、1294年に報恩講の式次第「報恩講私記(ほうおんこうしき)を作成し、実施されることとなる。ご恩に報いる集まりから「報恩講」と名付けられた。ここで言われているご恩は、親鸞聖人に対するご恩に報いる集まりであり、親鸞聖人の喜ばれる事が何かを知り、それを実行するというものである。しかし、恩に報いるといっても、どのような恩なのかわからない。まずは親鸞聖人からどんなご恩を受けているか、恩を知る事(知恩)、そして恩を感じる事(感恩)で初めて、恩に報いる(報恩)ことができるのである。
親鸞聖人の喜ばれる事とは
親鸞聖人の教えを伝えた蓮如上人のお手紙である御文章には、「信心獲得(しんじんぎゃくとく)することが一番喜ばれることである、早く信心獲得をすること」とある。信心獲得とは、親鸞聖人の教えを聞き、本当に幸せになることをいう。どうすれば本当の幸せを得ることができるのか。
本当の幸せを求めて
私たちは日々、幸せを求めている。学校に行き友人と話す事、遊ぶこと、仕事をし、家庭を持ち、美味しいものを食べ、幸せを感じ生きている。しかし、不安がいっぱいの世界で生きている私たちにとって、人生の中で幸せを得ても、一時的なものであったり、裏切りにあって消えてしまう事もある。その時、自分は幸せになれないのではないかと自信を喪失してしまうのではないだろうか。しかし、親鸞聖人のいう本当の幸せはどんな人でも手に入れることができると、説いている。この幸せを知るためにも浄土真宗の教えを聞き、本当の幸せになるのが、親鸞聖人の一番喜ばれることであり、報恩講が行われる目的である。
さいごに
真宗大谷派の東本願寺では11月21日から28日の8日間行われる。明治時代に旧暦から新暦に変更され、旧暦の11月28日は、新暦の1月16日に該当しているので、京都の西本願寺では、1月9日から1月16日の7日間報恩講が行われている。また、一般寺院でもおこなわれ、ほんこさん、御取越(おとりこし)、お引き上げとも言われ、地域によっては門徒自宅でも執り行われる。報恩講では、親鸞聖人が書かれた正信偈を読む。正信偈は、お経ではなく、正しい信心の歌である。心の中で信じることは、その人の人生そのものであある。また正信心(しょうしんじん)は本当の幸せという意味でもある。本当の幸せを知るために、ぜひ報恩講に足を運んでいただきたい。なお、東本願寺では、インターネットライブ配信もされるのでぜひ。