世界には動物報恩譚が多く存在している。動物報恩譚とは、いわゆる動物の恩返しである。日本においては「鶴の恩返し」「浦島太郎」のように動物が助けてもらったお礼に人への恩返しとして幸福や名声を報いるという昔話がある。そして京都市上京区にある称念寺(しょうねんじ)には、猫の報恩譚があり、猫寺と呼ばれている。
称念寺(しょうねんじ)とは
京都市上京区の千本寺之内(せんぼんてらのうち)の交差点から東へ進むと、西陣の町中に称念寺がある。慶長11年に獄誉上人(がくよしょうしん)が浄土宗(総本山知恩院)に属す松平信吉公【徳川家康公の義兄弟】の深い信仰を得て創建した寺院である。
称念寺という寺号は、獄誉上人がひそかに尊敬し、模範として学んでいた称念上人【戦国時代の浄土宗の僧】からとったものであるが、今は通称である猫寺の方が有名である。そんな称念寺には、江戸時代、荒廃していた寺院が猫の恩返しによって復興した伝説「猫の恩返し物語」がある。
称念寺の猫の恩返し物語とは
称念寺は江戸時代初期、松平信吉の帰依を受け建立された当時は、300石の寺領を有し栄えていた。しかし、信吉が死んでから以降は、松平家と疎遠となってしまい寺は荒廃していった。3世目の住職の還誉上人の時代になると、毎日托鉢を行うほど困窮していた。その和尚は飼い猫をとても大切にしており、自分の食事を削ってでも可愛がっていたのである。ある日托鉢を終え、疲れた足を引きずって寺へ戻った和尚は、そこで美しい女性に出会う。世にも美しいその姫は、優美な衣装をまとい、優雅に舞をまっている。本堂の障子には、月光の光で愛猫の影が映っているのを見て、和尚はその姫が猫の化身と気づくのである。と、ここで恩返しがあるのかと思いきや、なんと和尚はこの姿を見て愛猫を寺から追い出してしまう。自分がこんなに苦労しているのに、踊って浮かれているとはどういうことだと腹を立てたからである。
恩返し物語の結末
寺から猫を追い出した数日後、その猫は和尚の夢枕に出て「明日、寺を訪れる武士を丁寧にもてなせば、寺は再び栄える」と言う。そして翌朝、猫が言った通り、松平家の武士が寺を訪れる。亡くなった姫がこの寺に葬って欲しいという遺言があるので来たという。それ以来、寺は再び松平家との親交が戻り、以前にも増して栄えたという。
最後に
称念寺には、和尚が愛猫をしのんで植えた松がある。その松は20メートルも横に伸び、猫が伏したさまに似ていることから「猫松」と呼ばれている。また、その松が本堂の軒に達するぐらい成長すれば、再び猫が現れて寺を助けるという伝説が残っている。寺では動物を手厚く供養しており、動物専用の観音堂があり、毎年春(4月)と秋(10月)の2回合同供養祭を行っている。また、称念寺には動物健康祈願のお守りの授与を受けることができるが、これがまた可愛らしい猫の刺繡がされている。住職の愛猫をモデルにデザインされており、その他犬のお守りもある。ペットをお飼の方はぜひ一度、訪れてみてはいかがだろうか。