アイヌ民族は北海道や樺太の先住民として知られる。アイヌ民族には現在の日本の葬儀葬式と共通点を持ちつつも、和人とは違った独得の死生観を持っている。
子供の誕生
肉体に魂が吹き込まれることで人が生まれるとアイヌの人々は考える。誕生したばかりの子の魂は弱弱しく、肉体から抜けやすいとされている。ゆえに赤ん坊を懇篤に世話し、育てる。また、肉体に魂が宿るのと同時に、つき神も誕生するとされており、生涯を共にするという。そしてつき神は良し悪しに関係なく事象を察知し、人に胸騒ぎを起こし、知らせると信じられた。そんなとき人々は適切な助言をつき神に祈り求めた。
アイヌの名付け
アイヌの家庭では生まれてしばらくは子供をあだ名で呼ぶ。そのあだ名というのも日本語に訳すと汚い名前であった。「糞のかたまり」や「老父の肛門」などがあったそうだ。これは悪い神であるウエンカムイがいい名前の子供を神の世界に連れて行ってしまうと信じていたからである。正式な名前は癖や性格が出てきてからそれにちなんで名付けられる。また、同じ名前の人で不幸が出た場合には名前を変更することがある。必ずしも一生を同じ名前で過ごすことはない。
アイヌの葬儀
人の死後、死体は洗われ、死装束が着せられる。次に、火の神と死者に向けてアイヌにおける陀羅尼を唱える。そして、生者は死者に供物を捧げ、訣別の食事会をする。葬式の翌日には、屋内を清め、座席変えなどを行う。アイヌでは、父母や夫の死への喪は重い傾向にある。そこでは一定期間の外出禁止、散髪の禁止、再婚の禁止などが確認される。
死体は埋葬される。死者を埋葬した墓地を訪ねる習慣がアイヌ文化にはなく、埋葬以降はヌラッパやイチャルパと呼ばれる祖先供養が行う。
アイヌの先祖供養
アイヌの祖先供養は屋外で行われる。ヌサ(弊壇)に祖先に捧げるイナウ(祭具の一種)を立て、餅や酒かす、タバコなどを供える。アイヌでは死者は現世と同じように彼方の世界で生活するという世界観から、裁縫道具などの生活用品が副葬される。此方の世と彼方の世は互いに逆転しているという世界観もアイヌには存在する。そのため、装束や神々への礼拝の仕方も普通とは逆の作法で行われる。また、あの世に持っていくために、器物を破壊することで霊を解放しようとする儀礼もある。遺品を燃やすことで死者の世界に送ることも行われていた。中には、住居(家)などのスケールの大きいものもあったようだ
参考資料
■北の生活文化(アイヌの人々の家族構成)
■煎本孝(2004)「アイヌにおける死の儀礼と復興:紛争解決、共生、行為主体」.北海道大学文学研究科紀要,113,31-64.