新型コロナウイルスの流行による第一回目の緊急事態宣言から早一年が経過した。オリンピックをはじめとして、多くの行事も中止になった。人の移動が制限される中、感染拡大を予防するために、去年から帰省を自粛している人も多いことだろう。お盆に帰省して、先祖の供養をすることができず、もどかしい思いをした人も中にはいるだろう。
北部九州におけるお盆の伝統行事「精霊流し」とは
お盆は、日本では広く一般的に、夏に行われる先祖の霊を供養する伝統行事でだと知られている。全国的に多くの地域では、新暦の8月13日~15日に行われているが、一部地域では7月13日~15日に行われることもある。また、「先祖の魂を供養する」という趣旨は共通であるが、地域ごとにその方法は多種多様である。今回は、北部九州を中心に行われる「精霊流し」について紹介したい。
精霊流しは、長崎県を中心に、佐賀県や熊本県の一部地域で行われている伝統行事である。長崎県出身のシンガーソングライター、さだまさしが作詞・作曲を行った「精霊流し」という曲で、知っている人も多いかもしれない。8月15日の晩に、盆提灯や花を乗せた精霊船と呼ばれる船に、先祖の魂を乗せて運ぶ行事である。初盆の場合は、大きな精霊船を出す場合もある。特に、長崎市内で行われる精霊流しは、爆竹を鳴らして巨大な精霊船が送り出されており、見た目の華やかさが有名である。長崎市の精霊船は、道路を運ばれるが、実際に船を川や海に浮かべる地域もある。
北部九州において盆正月に並ぶ伝統行事「くんち」とは
北部九州においては、お盆や年末年始と並んで、「くんち」の時期になると帰省する人も多い。「盆正月に帰らなくてもくんちには必ず帰る」という人もいるほどである。「くんち」という言葉に耳慣れない人も多いかもしれない。
くんち(丁寧な言い方でおくんち)とは、北部九州における秋祭りの呼称である。その年の収穫を感謝して奉納される。神社から御旅所までの神輿の神幸に、地域ごとに華やかな山車や囃子が加わる。くんちの語源は、旧暦の9月9日、つまり「九日」に行われたためである説や、収穫した作物を神に供える日であることから「供日」であるという説など、諸説ある。
殆どが規模を縮小し、神事のみ執り行われた
昨年は、新型コロナウイルスの影響により、くんちをはじめとする多くの祭りは神事のみが執り行われた。その華やかさから見物に訪れる観光客も多い長崎市の精霊流しも、観光を控えるように規制された。伝統行事は、本来の神道・仏教行事としての意味合いは現在では薄れつつある。しかし、その土地の人間が集まる場であったり、観光資源としてであったり、重要な意味を持つことに変わりはない。伝統の継承のためにも、人々の繋がりのためにも、新型コロナウイルスが終息して、行事を行うことができることを祈っている。