生前贈与は有効な相続税対策として御存知な方も多いだろうか。また、生前贈与の一種として実行されている暦年贈与も有効な相続税対策とされている。
生前贈与とは財産を有する人が生前に相続人に対して、所有している財産を贈与することを言う。贈与をすれば当然贈与税が課税されるが、相続人一人当たり年間110万円までならば贈与税は課税されない。この年間110万円は贈与税の非課税額(相続税法第1条4項他)と言う。贈与税の非課税額を利用し、例えば相続人全員に対して一人当たり年間百万円を贈与することを暦年贈与と言う。
暦年贈与は誰でもすぐに実行できて、かつ低コストな生前贈与
暦年贈与は比較的ポピュラーな相続税対策である。面倒な手続きも必要とせず、相続人達への負担も少ないからだ。しかし、近年の相続税法や民法の相続関係法令の改正により、用法を誤ると脱税行為と見做され、相続税が課税されてしまうのだ。課税されてしまう条件とは何かと言うと、名義預金である。
暦年贈与が名義預金とみなされる可能性は低くない
名義預金とは、預金口座の名義人と実際に口座を利用している預金者が異なる預金のことだ。具体的には、財産を有する人(被相続人)が子供(相続人)名義の預金口座に毎年100万円入金していた場合、当該預金口座の通帳と印鑑、銀行のカードは被相続人が管理していて、相続人は全く関与していない、若しくは存在すら知らない場合が該当する。
名義人は相続人であっても、事実上口座の管理者は被相続人であるため、被相続人の預金口座と見做されてしまうため、贈与税は非課税とはならないのだ。名義預金とは見做されない場合は、口座の管理者が相続人であることである。つまり、前述の場合だと通帳と印鑑、銀行のカードは全て相続人が管理している状態となっていなくてはならない。
名義預金とみなされないために何をすればいいか
名義預金と見做されないためのポイントは以下の通りだ。
・預金口座の名義人(相続人)が通帳や印鑑、銀行のカードを所有、管理していて口座の金員を自由に使うことができる状態であること。
・預金口座の名義人が被相続人から贈与を受けていることを知っていること。
・贈与について、被相続人と相続人の間で贈与契約書が贈与の都度作成されており、当該契約書に日付と関係者の自署捺印があること。
・贈与者(被相続人)と受贈者(相続人)において、前述の贈与契約書の捺印に使われた印鑑が同一のものでないこと。
贈与税と相続税は贈与税の方が税率は高い
贈与税の非課税額一杯である110万円を毎年贈与することも良いのだが、名義預金と見做される前に重要なことがある。それは、相続税よりも贈与税の方が税率は高くなることだ。一千万円贈与するよりも、同額を相続した方が税額そのものは低額となるからだ。
状況にもよるのだが、全体のバランスをとることで敢えて贈与を抑え、相続税を高額とすることで全体の税額を抑えることも重要だと考える。目先の節税も全体のバランスを考えた節税も税理士や弁護士等の専門家に相談しつつ対策を練っていくことを勧める。個人や家族で考えるよりも、明確な解答を提示して貰えるはずである。