昨年12月中旬、「民法改正 相続編をざっと読む」という講座が開かれた。6年前まで家庭裁判所で数多くの遺産分割調停に携わってきた者として新しい知識を装備しておくべきと思い参加した。たまたま講座の講師が横浜家裁で調停官(週1回裁判官として調停を行う弁護士)をしていた方で私も数回、調停委員として一緒に調停を行ったことがあった。
どうして相続法は改正されたのか?改正の背景は?
今回、約40年ぶりに相続法が大きく改正された背景は、日本人の高齢化の進展である。1989年には被相続人の内80歳以上は約4割だったが、現在は約7割になった。残された配偶者も高齢化し、再婚や就職で新たに人生を切り開くことが難しくなり、高齢の配偶者の保護をする必要性が高まってきた。その観点から配偶者の居住の権利を保護するための方策が設けられるほか、遺言を利用しやすくする観点から自筆証書遺言の要件緩和などが改正された。
相続法の主な改正項目
主な改正項目は次の6項目があげられる。
(1) 配偶者の居住権の保護
(2) 遺産分割に関する規定の見直し
(3) 遺言制度の見直し
(4) 遺留分制度の見直し
(5) 相続の効力の見直し
(6) 相続人以外の者の貢献を考慮
配偶者の保護はどのように改正されたか
配偶者の保護に関する項目は(1)配偶者の居住権の保護と(2)遺産分割に関する規定の見直しの内、持ち戻し免除の意思表示の推定規定である、
先ず(1)の配偶者の居住権の保護については配偶者居住権が創設され、配偶者は相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、遺産分割の手続きが終わるまで、又は6か月間は、引き続き無償で建物を使用できるようになった。
又、配偶者は被相続人の財産に属した建物に相続開始時に居住していた場合において、相続人間の遺産分割または遺言による贈与(遺贈)、あるいは裁判所による審判により配偶者居住権を取得することにより、終身又は一定期間、その建物に無償で居住できるようになった。
(2)の遺産分割に関する見直しの内、持ち戻し免除の意思表示の推定規定とは婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が他方配偶者に対し、その居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については、民法903条3項の持ち戻しの免除の意思表示があったものと推定され、遺産分割においては、原則として特別受益として当該居住用不動産の持ち戻し計算をすることが不要とされるようになり、配偶者に多く財産を残せるようになった。
配偶者に多くの財産を残すにはどうしたら良いのか
今回の相続法の改正を踏まえて高齢の配偶者へできるだけ多くの財産を残すにはどうしたら良いかというと、一番良い方法は遺言書を作成しておくことである。夫婦に子供がいない場合、相続人は配偶者と被相続人の兄弟姉妹となるが遺言ですべての財産は配偶者に相続させることにしておけば、兄弟姉妹には遺留分減殺請求権がないので、すべての遺産を配偶者が相続することができる。私の経験でも遺言が無いため普段疎遠な配偶者の兄弟姉妹に法定相続分を支払うはめになった気の毒な事例があった。
子供がいる場合、相続人は配偶者と子供になるが、不動産を配偶者に生前贈与しておけば、今回の改正で持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されるので、遺産に戻して加算する必要が無く、配偶者へ多くの財産を残すことができ、今後の生活に安定させることができる。しかしこの方法は被相続人が配偶者より先に亡くなることを想定したものである。
遺言にはどのような種類がありどのように改正されたのか
大きく分けると、普通方式と特別方式があり、普通方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があり、特別方式には危急時遺言である「死亡危急者遺言」「船舶遭難者遺言」と隔絶地遺言である「在船者遺言」「伝染病隔離者遺言」がある。
普通方式3種類はそれぞれメリット、デメリットがあるが確実なのは費用はかかるが公証人役場で作成する「公正証書遺言」である。(3)の遺言制度の見直しでは「自筆証書遺言」の要件が緩和され、添付する財産目録については自署でなくてもよくなった。ただし、財産目録の各頁に署名捺印することを要する。また、現在、変造や偽造のリスクがある自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度が創設された。手数料が必要となるが、この場合、家庭裁判所による検認は不要である。
その他の改正について
その他、各相続人は遺産分割が終わる前でも、一定範囲で預貯金の払い戻しを単独で受けることができるようになった。又、遺留分を侵害された相続人は遺贈や贈与を受けた者に対し遺留分侵害額に相当する金銭を請求できるようになり共有関係が当然に生ずることを回避できるようになった。更に特別の寄与の制度が創設され、相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には相続人に対して金銭を請求できるようになった。
改正相続法の施行期日は2019年7月1日から2020年7月10日まで項目によって異なるので注意する必要がある。