「故人が生前愛用していた物を一緒に棺に入れたい」ーー葬儀に際し、そう希望する遺族は少なくない。しかし火葬を行う日本では、環境への配慮などから燃やせないものを棺の中に入れることはできない。そうした中で京都の杖メーカー「つえ屋」が、棺の中に入れて一緒に火葬することを目的にした杖を商品化している。同社に昨今の杖事情などについて話を聞いた。
以前から杖を副葬品にしたいという希望はあった
この杖の名前は「天国のつえ」。これまでにも「天国に行っても自分の足でしっかり歩いて欲しい」と棺の中に故人が生前愛用していた杖を入れたい、という希望は多かったという。しかし、市販の杖の多くはネジなど一部に金属を用いており、棺の中に入れることはできない。そこで総木製にして燃やせるようにしたのが「天国のつえ」だ。故人が信仰していた宗教に応じて「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」など記す文字も複数用意している。白木の物もあり、こちらは遺族や葬儀参列者が自由にメッセージを書き込こめる。
同社は京都を中心に東京や大阪で杖・ステッキ専門店を運営。一般的な杖・ステッキに加え、紹介した「天国のつえ」などユニークなもの製造・販売しており、総アイテム数は9000種類以上にも及ぶという。こうした同社の展開から見えてくるのが「杖をもっとお洒落に、手軽なものにしたい」という思いだ。
天気や服装に応じて使い分け
例えば眼鏡。本来は視力を矯正するための道具だが、今ではファッションアイテムとしての性格も持ち、複数の眼鏡をTPOによって使い分けることも珍しくない。「杖も同様に、その日の外出先、天気、服装などに合わせて使い分けをして欲しい」と同社は提案する。
実際に同社の常連客の中には1人で何本もの杖を保有している人が少なくない。「お洒落な杖なら『友達にも見せたい』と思い、積極的に外出するようになる。結果的に高齢者・障害者の社会的孤立や歩行能力の低下を防ぐことができる」と同社ではコメントする。
また、単に「歩行を支える」以外の機能・特徴を重視しているのも同社の特徴だ。例えば扱う杖の中で最も高いものは約200万円もする。京都の伝統技能である螺鈿細工を施し、工芸品としての性格を持たせている。
外国人が日本土産に買って帰る
「杖を福祉用具として考えるのではなく、もっと気軽に使ってほしい」を実践しているのは実は外国人だという。同社が京都の新京極に構えている店舗は来店者のほとんどが外国人観光客。ちょっとお洒落な杖を「日本の土産に」と買い求めていくのだという。和風テイストのものや有名キャラクターがデザインされたものが人気だとか。