以前、都内に住んでいたときに、ベランダから墓が見えるワンルームマンションを借りていたことがあります。駅に近いマンションでしたが、敷地が寺に隣接していて、寺の奥に墓地があったのです。周囲を建物に囲まれているので、外からは墓があるとはわからないのですが、住人は上から俯瞰で墓が見えました。狭い墓地ではありましたが、そういう環境のせいか家賃がリーズナブルで、学生だった当時のわたしにはとても魅力的な物件でした。
住んでみると静かですし、日当たり良好で洗濯物もよく乾き、何の支障もありません。他とは違う点といえば、お彼岸シーズンにはお線香の匂いが時折漂ってくることで、これは個人的にはまったく嫌ではありませんでした。あとは、台風や強風のときに卒塔婆がカタカタ鳴る音がややわびしく聞こえるのが気になったくらいでしょうか。
住居の裏がお墓というのに嫌悪感を示す人も世の中にはいるようですね。ご先祖のお墓だったら、怖いという人は少ないでしょうから、自分と血縁のない人の墓を気味悪く感じてしまうのでしょう。そして、死を身近に感じるのが怖いのかもしれませんね。
国や地域や風土によってお墓も様々です
わたしは個人的には「メメント・モリ」の精神で、日々、死を想うことで生を実感したい方です。なので、墓を忌み嫌うのはおかしなことだと思っています。東京では青山や谷中など、観光やショッピングで人気のエリアに霊園があります。最近の静かな流行に、散歩と歴史発見がありますが、〝霊園めぐり″も趣のあることとして捉え直されています。有名人や歴史上の人物のお墓を尋ね歩く人も多いです。関連書籍も多数出ていますので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。
旅先でも、お墓を見るのは楽しみのうちの1つです。京都に行って墓めぐりをしたら、そのまま日本史探訪になりますし、沖縄では亀甲墓という斜面に横穴を掘って入口を石で塞いだ墓を見させていただきました。海外では、ポリネシアの島々のお墓は、あでやかな蘭の花が真っ白い十字架に掛けられていて、妙に開放的に感じました。アメリカ本土では、四角い石碑のみが等間隔に並んでいる丘一面の墓地も拝見しました。モンパルナスで見た棺型の墓というのも、パリの風景とともに味わい深いものでした。よく考えてみると、古墳やピラミッドだってお墓ですから、お墓は総じて人類のモニュメントでもあるわけです。
国や地域、風土によってお墓も様々ですが、その地で生きた人たちの軌跡を感じますね。有名無名にかかわらず、お墓に参ると、そこで眠っている故人との対話ができるような気がします。気がするだけ……なのかもしれませんが、それが今を生きている私たちにとって貴重な体験なのだと思います。よくある日本式の墓にしても、外柵、墓石、墓誌、灯篭、石碑、石塔すべてにバリエーションがあり、一基一基デザインが違うので、故人やご先祖について想像が膨らみます。墓参りに行った際にはご近所を見て歩くのもまた一興です。