「葬儀屋探偵明子シリーズ」は今は亡きミステリー作家の山村美紗が1990年から1996年にかけて発表した推理小説シリーズである。ヒロイン石原明子の父親は京都でタクシー会社と葬儀社を経営しており、特に葬儀社は儲かっていた。
葬儀屋探偵明子シリーズのあらすじ
東京の大学の薬学部を卒業し、東京で就職していた明子は父の仕事には全く関わらず、ゆくゆくは恋人で同じ大学の医学部を卒業した研修医の黒沢秋彦と結婚するつもりであった。ところが、父親が急死したため、仕方なく京都に帰ってきた。
当初は半年くらい京都にいて、会社を整理し、片付いたら東京に行くつもりであったが、実際にやってみると、多くの従業員や借金を抱えている上、従業員と一緒に仕事をしていると、情も湧き、簡単に会社を整理、解散することは難しくなり、東京へ行くことができなくなってしまった。黒沢と明子の関係はというと、黒沢が京都に来たり、明子が東京に行って会うといった遠距離恋愛を継続している。
殺人事件が起こり、その葬儀を石原葬儀社が請け負うのが通例
そして、明子の周りでは何故か殺人事件が多発し、犠牲者の葬儀を「石原葬儀社」が請け負うことが多く、必ず葬儀の場面があって、京都と東京の葬儀の違いなどの説明もある。
葬儀については「石原葬儀社」には秋山という36歳で独身の番頭さんがいて、仕事熱心で葬儀全般一切を取り仕切っているほか、ベテランの社員が多く、依頼人の評判も悪くない。殺人事件は明子が事件に首を突っ込み、得意の推理力を発揮し、黒沢や京都府警の狩矢警部の協力を得て、解決に導いていくというのが、毎回の筋立てである。
花輪や受付、香典袋など東京と京都の葬儀の違い
小説で書かれている東京と京都の葬儀の違いは、東京では葬儀場の入口に花輪を立てるが、京都では青い葉だけの樒に提供者の名前を書いて並べる。葬儀の受付も東京では会葬者はすべて住所と名前を書き、受付係が香典袋の中を開いて金額を確認して書き入れるが、京都では香典袋はそのまま糸を通して集めておき、喪主に渡すことになっている。東京の方が後の整理が楽で合理的だが、京都では金額を改めるのは、不作法と言うことなのだろう。
京都の一部で今も残る「出棺で茶碗を割る風習」
京都では出棺の際に故人の茶碗を割る風習がある。出棺時に玄関で割ることで、「あなたが日常的に使用していた茶碗はもう無いので、迷わず成仏してください」という意思を表している。小説に書かれていないことでも、香典の封筒は東京では白黒の水引であるが、京都では黄色と白の水引が多い。京都は皇室のお膝元であり、皇室が白黒の水引を使用するので、庶民は黄色と白を使うようになったらしい。
通夜ぶるまいにも京都と東京では違いがある
通夜での食事や酒の振る舞いでも、東京では参列者全員に振る舞われるのに対し、京都では親族やごく親しい友人などに限って振る舞われる。
その他の地域でも、北海道では香典に領収書を出すのが一般的である。福井では葬式でお赤飯を食べる。これは天寿を全うしたお祝い、又は縁起直しの意味があるらしい。奈良では「内位牌」「野位牌」の二つの位牌を用意する。佐賀では「枕団子」を49個供える。このように古くから受け継がれてきた葬儀の慣習は日本全国、それぞれの地域によって色々と違いがあるものである
テレビドラマでは「赤い霊柩車シリーズ」として高視聴率
葬儀屋探偵明子シリーズは5巻発行され、20話が納められてぃる。これがフジテレビでドラマ化され、1992年3月から2018年11月まで27年間に亘って37回放映され、平均17%の高視聴率を得ている。
主な出演者はヒロイン石原明子に片平なぎさ、黒沢春彦(原作では秋彦)に3作目から神田正輝、葬儀社専務の秋山隆彦(原作より相当年上)に大村崑、事務員の内田良恵(原作では良子)に山村紅葉(原作者山村美紗の長女)、狩矢警部に若林豪が扮して、それぞれ適役である。毎回人が亡くなるので、葬儀のシーンが必ずあり、樒が並び、出棺の際には茶碗を割って霊柩車を送り出す京都の葬儀の風習が映し出される。又、大村崑と山村紅葉の夫婦漫才のようなやりとりも楽しめる。
出演者の高齢化でそろそろ幕引きか
テレビドラマ37回の内、小説「葬儀屋探偵明子シリーズ」がドラマ化されたのは17回で、残りの20回は山村美紗の別の小説「キャサリンシリーズ」などからの借物である。出演者は長年一緒にやってきただけあって、呼吸が合いそれぞれ個性を発揮し好演しているが、さすがに27年も経つと高齢化で、小説のイメージを保つのが難しくなってきた。そろそろ幕引きの時が来ているのかもしれない。