散骨とは、故人の遺体を火葬して粉末状にしたものを、海中や山中で撒く埋葬方法のことである。現在、海外では散骨の方式がとられている地域も存在するが、日本では散骨が近隣住民などとのトラブルになるおそれがあることから、厚生労働省によって規制の対象となっている。ところが、規制の対象にも関わらず、日本で散骨を望む人の割合は年々増加傾向にある。海外ならまだしも、日本で散骨が増えているという現状には驚かされるばかりである。そこで今回はなぜ散骨が増加傾向にあるのかを、海外の場合と照らし合わせて探っていこうと思う。
日本における散骨
日本における散骨の歴史は、平安時代まで遡る。当時、日本では放るという習慣が定着していたため、遺体を山や海に捨てるといったことが普通に行われていた。葬るという語源も放るが基盤となったといわれている。その後、土葬や火葬してお墓に入るといった葬法の定着によって、散骨は衰退の一途をたどった。この時期から、人間の骨を海中や山中で撒くということは倫理観に反するという声が多数挙がりはじめた。こうして、現在ではどうしても散骨という方法に負のイメージがつきまとっている。ところが現在になって、散骨という葬法が見直されつつある。背景には、近年公開された高倉健主演の「あなたへ」という映画の影響が少なからずあるのではないか。この映画は、様々な人々の人生に関わりながら散骨の意義を理解していく物語で、生命の源、母なる海へ還りたいという想いを感じとることができる。
このように故人のルーツを理解できるという面において、散骨は非常に重要な役割を担っている。この映画が公開されたことによって生命の源、母なる海へ還りたいという想いが散骨に対する負のイメージを払拭したといっても過言ではないだろう。そうすると散骨が葬式方法の手段と定着して増え続けている現状に、なんら疑いの余地はない。
海外における散骨
では、現在でも土葬が主流であるアメリカやイギリスといった欧米諸国や韓国や中国といったアジア諸国ではどうなのか。これらの国々も、驚いたことに散骨が増加傾向にある。散骨が増え続ける背景には、土葬にかかる費用の高騰がある。アメリカのペンシルベニア州では、簡素で最低限なものであっても120万円前後かかってしまう。これは火葬の10倍前後の値段である。そこで、少しでも費用を安くするために火葬後に散骨というパターンが欧米諸国やアジア諸国では定着しつつある。日本と同じく散骨が増え続けているという現状には変わりないのだが、費用を安くするためにマナー違反が相次ぐなど日本の場合とは少々意味合いが異なるようだ。もちろん周りの人に迷惑をかけたくない、環境に配慮したいという意識も影響するだろうが、これらの意識を凌駕してまで費用を安くしたいという意識が上回るということは、到底日本人には受け入れることのできないもので、欧米諸国やアジア諸国ならではの意識だろう。費用を安くするという面で考えると散骨は必要不可欠なものであろう。
散骨の今後
費用の面で散骨が人気になった欧米諸国やアジア諸国に対して、日本では生命の源、母なる海へ還りたいという想いから散骨が行われることがほとんどだ。そこには散骨に対する負のイメージは微塵も感じられない。むしろ最期まで、自分らしさを大切にして自然に還りたいという自己主張と受け取ることができる。こうすると、散骨を行うという主張を人間らしさと言い換えることができよう。節度を守って行う散骨は規制の対象ではなく、そこに我々が介入する権利はないはずだ。生命の源である母なる海へ還りたいとは誰しもが、思うはずである。そう考えると最期の人間らしさを主張する方法、それが散骨なのかもしれない。